トリプルトラブル
 珠希は真剣だった。
誰にも言わずにまず新聞配達のアルバイトをする。


珠希は開校間もない短期大学の入学金と、授業料を得ようと必死だったのだ。

だから珠希は新聞配達をしながら、一生懸命にその資金を貯めたのだ。

親には、身体を鍛えるながら短大に行くための資金作りためだと言っておいた。


親に迷惑掛けたくない。
その気持ちもは純粋であっただけに、誰もが身体の作りも兼ねているのだと疑わなかったのだ。




 筋トレの後はマットを使った受け身の練習。
柔道で怪我をしないためにもこの受け身は大切なのだ。


最初は寝姿勢の後方受け身。

身体全体の力を抜き、小指の部分から先にマットに触れるように打つ。


次は身体の大切な部分を守る受け身。

両膝をつき爪先立ちにする。
両肘を曲げながら顔面にもっていき、親指と人差し指を付けるとハートになった。


正樹は一瞬はにかんだ。
それは今の自分の思いだったから……


暫く固まっていた正樹は珠希に目をやった。
珠希は不思議そうに見つめている。


(――やるなら今しかない)

まは決意してそのハートを珠希に向けた。


「これ、俺の気持ち」

正樹にそれを見せられた珠希は顔を赤らめた。

そして、とびっきりの笑顔を正樹に送った。


――ドッキ!!

正樹の心が激しく波打つ。

それは珠希が無くてはならない存在になった瞬間だった。




 前に勢いよく倒れながら、肘より前部分でマットを強くたたく。

手を最初に付くと手首を痛める可能性がある。
だから肘から着くのだ。

その時、腹に力を入れて顔、胸、腹をキープする。


中腰姿勢の前方受け身では、上体を前方に大きく伸ばし膝、腹、腕、顔を浮かして肘から前全部で強くマットを打ち受け身をとる。

後方では首を前に折りながら背を丸くして後方に返る。


珠希と共にいるだけで正樹は成長する。

次第に筋肉質な体格に変化していったのだ。




 沙耶はその変化に気付き秘かに正樹の後を追ってみた。

何処かで体を鍛えているのは一目瞭然だった。


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