トリプルトラブル
 「美紀ちょっと、バルコニーで待っててくれないか?」
正樹はやっと決心した。

勇気を振り絞って美紀を誘った時、全身の血が抜けたように感じた。

正樹はは緊張しまくっていたのだ。


美紀は素直に頷いた。


――ガチャ。

躊躇いながら、正樹がルーフバルコニーのドアを開ける。

そこで正樹が見た美紀の後ろ姿は、愛する妻そのものだった。

珠希は又悪戯をした。
美紀の髪を下ろしてさせたのだ。


「珠希………」
美紀に聞こえない位の小さな声。
それでも美紀は振り向いた。


(――又珠希を思い出しちまった。こんなんで良いのだろうか? こんなんで上手くやって行けるのだろうか?)

美紀を見ながら、正樹は沙耶の励ましの言葉を思い出した。


そして、やっと決意する。

美紀を愛しているなら、美紀を愛しているから、美紀の全てを愛したい。
と――。




 「美紀!」

思わず名前を呼んでいた。

その瞬間に珠希の幻影は消えていた。

ストレートヘアーでありながら、正樹は美紀を見つめていたのだった。


(――もしかしたら……元々居なかったのか?

――居て欲しいと思っていただけなのか?

――そうか……
自分が愛しているのは幻ではない。美紀なんだ!

――きっとそうだ……
美紀に辿り着くように珠希が仕掛けた罠なんだ)




 正樹は初めて美紀に珠希を感じた日のことを又思い出していた。


長暖簾越に見た美紀のシルエットを。


(――あの日は、珠希の誕生日だった……

――そうだよな。
やっぱりサプライズ好きな珠希の……)
珠希の幻影が今、美紀に重なる……
その途端に美紀への思いが爆発した。

抑えに抑えてきた激しい恋心が正樹の中で煮えたぎって行く。

それでも正樹は深呼吸をしながら、心を落ち着かせようと思った。


もう恋なんて出来ないと思っていた。
珠希が死んだと聞かされた時、封印したはずだから。
でも再び、愛する喜びに正樹は震えていた。



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