トリプルトラブル
 素振りの後はストロークを教える。


「フォアハンドのサイドストロークは、軸足を決め上体を真っ直ぐに立てて左足に体重をかけて、軸として体こ回転と共にスイングしてみて」

サービスを練習しているレギュラーの球を打つ。

それはラインぎりぎりのエースになった。

当然のように新入部員から拍手が起こる。


「バックハンドのサイドストロークはクローズスタンスで打つ」

又エースになった。


「クローズスタンスって解る? 軸足を決めて前足を踏み込む時、かかとから入ると膝が柔らかく使えるようになるから覚えてね」




 美紀の解説は判り易い。
その上次々とエースを決めるから、新入部員は憧れの眼差しを送っていた。


クローズスタンス……
ラケットを左腰で押し出すように地面と平行に振りながら膝を伸ばし、右足前方でインパクトする。
重心はバックスイングで軸足にかかり、右足に移動してフォロースルーで右足にかける。
左手でバランスをとることでよりスムーズになる。


アンダーストローク・トップストローク・ロビング・ハーフロビング・シュートと続き、最後にネットに寄ってボレーとなる。


美紀は珠希の指導振りを小さい時から見ていた。
だから的確に教えられるのだった。


美紀はソフトテニス部のエースだった。
でもそれは珠希から受け継いだものではない。
全て努力の賜物だった。


珠希が実母でないと知った時。
余りのショックに立ち上がれなかった。

でも家族が居たから克服出来たのだ。

美紀が一生懸命家族の世話をやくのは優しさへの恩返しだったのだ。


でも……
心の片隅では……
珠希をライバル視して、常に意識していた。

それが美紀の弱点でもあったのだ。






 後衛がボレーを出し、練習が始まる。
三球を五回。
そしてスマッシュに繋げる。

三球の内訳は中ロブ、繋ぎのロブ、そしてスマッシュ攻撃だ。
なるべく全員がコートを使う工夫。
キャプテン美紀の真価が問われることも承知の上で采配を決意したのだった。


それは珠希の影響をことごとく受けてきた美紀ならではの素質だった。
それでも美紀はもっと上を目指そうと思った。
珠希の夢を自分の夢とするためにも。


珠希の夢は国民体育大会で県代表として出場すること。
でも一番は……
正樹に愛されることだった。




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