トリプルトラブル
 正樹は大阪の美紀の祖父に婚約した旨の報告した。

そう……
これが、もう一つの壁だった。


電話口で祖父が喚いていた。

舌の手術をした祖父は言葉を発しようと必死だった。

それは正樹にも解っていた。
それでも第一番知らせたかったのだ。


――ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴った。

正樹はドアを開けひっくり返った。

其処には大阪の祖父が仁王立ちしていたのだ。


正樹は気を取り直して、まず珠希の仏壇に案内した。

珠希の位牌に合掌した後、その横にあるツーショット写真を手にした。


大阪の祖父は胸にそれを抱えた。
まるで、心の奥底にまで刻み付けるように……

我が子が殺害したのは、確かに誘拐されたもう一人の娘の旦那だった。

その事実は、大阪の祖父を何度も奈落の底に落としていたのだった。




 珠希の仏壇に合掌した後、祖父はスケッチブックを取り出した。

それには移動中に書きためたものだった。


――なぜだ!――


――美紀は子供だ――


――美紀を汚すな――


――美紀は宝物だ!――


――美紀は連れて帰る――


祖父の怒りは解る。

自分が同じ立場だったら、きっとこうするだろう。

でもここは絶対に譲れなかった。


祖父は、秀樹と直樹が社会人野球チーム入りを密かに応援しようと思っていた。

祖父は一代で財を成した人だった。
今住んでいる邸宅はその象徴で、ゲストルームも沢山あったのだ。
だから其処で三つ子達と暮らせることを夢見ていたのだった。


でも正樹は息子達の大阪行きをまだ知らなかった。

うっかりしていた。
正樹の頭は……

美紀との結婚話に浮かれていたのだった。




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