トリプルトラブル
 予約したチャペルは高校と近かった。

二人は、息子からの逃避行の訓練をかかせなかった。


やはり言えなかった。
美紀を本気で愛してるなんて。


(――どの面下げて言えばいい)

本当は正樹は恥ずかしかったのだ。
それは悩みに悩んだ末に、やっと結論を出した三人への愛の証だった。

いい加減で優柔不断な自分を愛してくれた、珠希と智恵と美紀への感謝の気持ちだった。


そして美紀の戸籍は一旦、祖父の娘・結城智恵に戻されることになった。

やはり養女と結婚するのは無理があるとの祖父の判断だった。


何とか……
ギリギリで間に合うはずだった。




 「申し訳ありません。義兄には私が説得しました。それが一番美紀ちゃんのためになると思って」

やっと沙耶が言った。
沙耶も祖父の喜んだ顔を曇らせたくはなかったのだ。


「こんな……自分の女房も守れなかった男です。あの時俺が運転していたら……そんなことを何時までもイジイジと考えてしまうような男です。それでも愛しています。胸が張り裂けるほど、美紀を愛しています。美紀に誰が憑依していても構わない。その人を含めて、全身全霊で愛したいと思います」
正樹は正直に美紀に対する愛を告白した。


祖父は泣いていた。
智恵が愛した正樹。
その正樹が、智恵が憑依していることを承知で……

いや憑依しているからこそ愛してくれると言う。

祖父は正樹に感謝した。
正樹に其処まで決意させてくれた沙耶に感謝した。





 「美紀は大阪で暮らすことが一番いいと判断して、沙耶さんにお見合いの世話を頼んだのですが……」

正樹が本当は美紀を自分に返すつもりだったことを知り、祖父は一瞬喜んだ。
でも、美紀が納得するはずがないと思った。
美紀は正樹との生活を選んでいたのだから……

その証拠は美紀の選んだ学校にあると祖父は思った。
育ての母と同じ短大に……

中学で体育教師をしながら国体の出場を目指す。

祖父はその決意により、育ての母の珠希が如何に素晴らしい人かを知る。


(――あの二人には悪いが、美紀を連れて帰るより自分が来よう。

――それが一番良いのかも知れない。

――余生を此処で迎えたくなった。

この素晴らしい家族の元で……)


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