トリプルトラブル
 沙耶の説明でさっき垣間見た光景を思い出した秀樹。


(――ママ……
やっぱりあれはママだったんだね)
秀樹は泣いていた。
美紀が背負わされた十字架の重さを感じて。


(――どんなにパパを愛しても、きっとパパは美紀を拒む。

――だって、パパはママが命だったから。

――例え美紀の中にママを感じていても……

――だから親父……
こんなに時間がかかったのか?

――ったく、しょうがねぇ親父だ……)

秀樹は正樹が沙耶にお見合い話を断ったあの時に、美紀の本心に気付いていた。

美紀は本当に正樹と結婚したいのだと感じていた。


『大きくなったらパパのお嫁さんになる』

そう言っていた事実を沙耶と正樹の会話から思い出しながら……


直樹も泣いていた。


(――美紀……
だから、だからパパが好きだったのか。

――でも……
俺には今しか無いんだ。


――ごめん美紀……
幸せになる邪魔をさせてくれ!!)



 祖父のエスコートで、一歩一歩祭壇に近づく美紀。


「待ったー。その結婚待ったー!!」

それでも駆けつける三人。

その姿を見て、沙耶も歩みを進めた。


(――ちょっと待った!

――自分も行きたい。

――正樹の元へ行きたい!

――素直に好きだと言いたい)

でも……
沙耶は躊躇った。

美紀の中で……
結城智恵が……
長尾珠希が……

微笑んで居るのが見えたからだった。


(――お姉さん……)

沙耶は又しても、壮大な珠希の正樹を思う心に折れたのだった。


でも屈辱ではない。
清々しい負けだった。


「美紀ちゃんー!」
沙耶は思いっ切り大きな声を掛けた。


「幸せになってね!!」

そう叫びながら、沙耶はいつの間にか微笑んでいた。

姪を嫁がせる叔母の心境になって。




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