トリプルトラブル
 夜になり、直樹君と秀樹君が帰って来た。
頭を見て驚いた。
高校球児を彷彿するような丸刈りだったのだ。

その余りの豹変ぶりに私は思わず笑ってしまっていた。


「そんな笑うな」
口を尖がらかす直樹君が可愛い。


「夕飯はこれでどう?」

直樹君は豚饅と書かれた袋を私に渡した。


「えっ、豚饅。私食べてみたかったんです。本場の豚饅!」

私は嬉しくなって、大声を張り上げていた。


「なになに、出来立ての商品ですが、冷めた場合は、もう一度ご家庭の蒸し器で蒸しなおすか、または電子レンジの場合、濡れふきん等をかぶせて加熱してください、だって」


私は箱に書いてあったように、早速蒸し器を用意した。

赤い箱の中には四個入っていた。


「まず蒸し布を敷いてその上に豚饅を並べて」

私は一番楽な方法をとっていた。
豚饅が取りだし易いように、蒸し布を敷いていたのだ。


(――一体何時この方法を覚えたのだろうか? 私の母は……、そうだ何時も電子レンジだったはずなのに)




 大阪の名物と言えば、お好み焼きとたこ焼きだとばかり思っていた。

だから、まさかの豚饅に涙目になる。


(――豚饅なんて初めてだよ。だって地元じゃ肉まんだったし……)

私は霞んで見えない豚饅に手を伸ばした。


「熱っ!!」


「大丈夫!?」
直樹君がすぐに駆け付けて、私の手をフーフーしてくれた。


「ダメだよ。豚饅は熱いから気を付けなきゃ」


「ごめんなさい。湯気で霞んで良く見えてなかったの」
私はそう言った。
涙だなんて言えなかったんだ。まさか豚まん見て泣いたなんて……

私は優しい直樹君に手を吹かれながら戸惑っていた。




 「やっぱり本場モンは違うな」
大君が被り付きながら言った。

私はこの本場モンと言う言葉に直樹君の口角が上がった気がした。


(――してやったりって思っているのかな?)
私も気が付いたら直樹君を見て笑っていた。


(――熱いのに良く平気だな?)
私は大君の食べっぷりに感心しながら、直樹君の言葉を思い出していた。


『大には内緒にしておいてね。あのね、帰りに美味しい物買って来るからね。いい、絶対に言わないようにね』

言わないようにと言われたから、言えなかった。

でも大君の姿を見て解った。




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