トリプルトラブル
 二人は大君を驚かせたかったのだ。
喜ばせたかったのだ。
素直にそう感じた。


私は三人の友情が羨ましかった。
何時かこんな風に仲間になれたらいいなと思った。




 午後から始まった練習は四時間で、普段はその後二、三時間は残るそうだ。

でも二人は早目に帰されたようだ。


練習用のユニフォームを脱ぐと、更衣室横のシャワールームへ飛び込んだ。


『流石に気持ちいい』


『うん、坊主最高』
二人はそんな会話をしたようだ。
やはり今までの頭には違和感があったらしい。
ましてそれをカラーリングしていたから尚更だったようだ。

今の高校野球は甲子園では終わらない。
正月近くまであるから受験生は大変なのだそうだ。


それでも社会人野球行きを希望していた二人は、焦る訳でもなく、のんびりとスカウトが来てくれるのを待っていたらしい。

だから、ドラフト会議後は伸ばしていたようだ。

久しぶりの坊主頭の感触は心地良かったそうだ。


キャンプに参加した時、突然の誘いだったからそのままで行ってしまったようだ。

だから、今回は坊主頭になろうと決めていたそうだ。




 二人は其処で甲子園に導いてくれたコーチと会ったそうだ。

新コーチと前コーチ。
双子だけあって見分けがつかなくて、声を掛けたらもう一人が振り向いてびっくりしたそうだ。


その時、急に母の言ったことを思い出した。


昼間慌てて携帯を掛けてみた。
すると、先に直樹君が電話してくれていたらしい。


(――流石、元生徒会長。気配り凄い)


でも私はお礼を言うのを忘れていた。


(――ヤバい)

この家に来てから何だかおかしい。
自分が自分でないような感覚。

私は一体どうなっちゃたのかな?


「あのー、母に電話をしたら直樹君から聞いていると言われました。本当にありがとうございました」


「いや、大したことはしてないよ。中村さんがいっぱいいっぱいだって解っていたから」


(――いっぱいいっぱいって……、そりゃそうでしょう。大好きな直樹君が傍にいるんだからね)

私は直樹君の本当の真意も知らず笑っていた。

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