トリプルトラブル
 夜。
社会人野球チームの練習から帰って来た時、直樹君は明るい顔をしていた。


(――吹っ切れたのかな?)

私はそう思っていた。


鉄板焼の終わったプレートを一旦拭いてから焼きおにぎりを作る。
母は味噌派だった。


「へー、初めて食べたけど、これ美味しいね」


「でしょ? 母の実家の方じゃ定番らしいです。普通お好み焼きって言うじゃないですか。あれもタラシ焼きって言うんです」


「えっフライのこと? タラシ焼きって言うの?」


「フライ? 大、お前の母ちゃん行田か?」


「ああ、そうだよ。忍城(おしじょう)ってあるだろう? あの傍だ」


「あ、あそこなら自転車で行ったな」




 直樹君は急に元気になった。


「忍城にこっそり行ったんだ。ホラ、日本一長いスイカン橋ってあるだろう? あの道真っ直ぐ行くとカラクリ時計台があって、その近くを曲がって暫く行くとSLが展示されていた」


「おいおい、あそこまでかなりあるぞ」


「此処へ来る前に一度見ておきたかったんだ。星川に森林公園と農林公園、百穴に蒲桜。それとさきたま古墳群と忍城。あ、荒川花街道も行ったよ。何もすることがなかったからね。鈍った体と相談しながら、数日かけて埼玉の名所巡りだ」


「そう言やお前ら親子、暇さえありゃ鍛えてるな」


「そうなんだ。でも流石に行田までは疲れて、忍城でぼんやりしていたんだ。そしたら侍みたいな人に会ってさ、でも頭は普通で……」


「今そんなことしてるんだ? 俺も最後に行きたかったな」

大君はしんみりとしていた。




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