トリプルトラブル
 上野駅まで約三時間。
私は直樹君の隣りで悶々とした時間を過ごすしかないのだろうか?


『心配要らないよ。中村さんのことは俺が何とかするから』

出掛ける前の直樹君の言葉にドキッとした。

まるで何もかも知っているかのようだ。

でもそれが余計に怖い。
直樹君はきっと私はママが憑いていると思っているに違いないのだから。


本当のことを知ったら、きっと愛想を尽かされる。
直樹君が探し求めていた初恋の人だと知って、私は益々離れるのがイヤになっていたのだった。


新幹線では二人は隣同士だった。
きっと大君が考慮してくれたのだろう。


でも私は直樹君のことはそっちのけで考え事ばかりしていた。


(――結局私は大阪で何をしたのだろう?)

今考えると、庭掃除だけだったような気がする。


美紀ちゃんのお祖父さんが、誘拐された娘を帰って来ると信じて丹精した庭。

ピロティにあった木製のブランコには愛が溢れていた。

私はその庭で花をいっぱい育てたい。
陽菜ちゃんには悪いけど、大阪で暮らしたい。
そう思ったんだ。




 だから私は、代官山でルームシェアをしようと誘ってくれた陽菜ちゃんに悪いと思いながらも、この家でずっと直樹君達と一緒に暮らしたいと思ったんだ。

前に一度だけ代官山に行った。
私は埼京線に乗ろうとして恵比寿駅方面から渋谷駅に向かって歩いていたんだ。

その途中で見つけた代官山の文字。
私は興味本意で其処から入って行ったんだ。
おしゃれな街を体験したくなって。


ガード下のだったか忘れたけど、脇道は坂道に続いていたのだった。

何処にあっても可笑しくない街並み。
そんな気がした。

お店はおしゃれだったから、もっ居たいと思った。


でも私は駅に戻れる範囲内で行動していた。

私は根っからの方向音痴だったので、冒険出来なかったのだ。


私は陽菜ちゃんの電話であの道をイメージした。
だから引っ越しを手伝うと言ったのだった。


私はその時、陽菜ちゃんとの約束を思い出していた。




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