トリプルトラブル
 新婚カップルの邪魔をさせないために、祖父が秀樹と直樹を連れ出してくれた。

だから今、長尾家には美紀と正樹だけだった。


二人でもう一度珠希の遺影に手を合わせる。

結城智恵と真吾夫婦の写真にも同様に合掌しながら夫婦になれた経緯を報告した。


「お前だと思って美紀を愛するからな」
そう言いながら正樹は首を振った。


「いや、邪魔しないでくれよ。俺達はやっと夫婦になれたんだ。俺は美紀だけを愛してく」

正樹はそう言うと、美紀を押し倒して唇を奪った。


「これが証拠だ」
息継ぎの度に愛を囁かれて、美紀の身体も萌えていた。




 美紀は悩んだ。
珠希の夫である正樹を愛したことを。

それでも、愛されることを望んだ。

ママの珠希の代わりでもいいから……


抱き締められる幸せを望んだ。

喩え、それが珠希が正樹に愛されがたいための行為だと知っても尚、正樹に恋い焦がれていた。


今さっきまで、正樹の熱い胸に抱かれながら……
神の御前にいた。
永遠の愛を誓い合うために。


それでも美紀は思っていた。
珠希から奪ってしまっていいのかと。

パパの愛を独り占めして良かったのかと。


ママと母にすまないと。


(――沙耶叔母さん。私には本当に憑いているのですね。

――それでも私は自らパパを選んだのだと信じたい。

――ママごめんなさい。又シャンプー借りるね)




 入浴上がりの美紀は正樹の部屋いた。

でも美紀は珠希に身体を乗っ取られていた。


ここぞとばかりに正樹に甘える美紀の振りをした珠希。

でも正樹も本当は気付いていた。
それでも、どうしょうもなく体は燃える。
正樹はもう我慢することは出来なかった。


「美紀!!」
正樹はわざとそう言いながら、抱き締めた。


(――珠希……
愛しているよ。でも俺は美紀に恋してる。だから今は邪魔しないでくれないか?)

正樹はそう心の中で念じた。
その思いが通じたのか、目の前にいる美紀から魂が抜けたように感じた。


正樹は改めて美紀を抱き締めた。

美紀の髪から珠希の香りがする。


「お馬鹿さん」
正樹は拗ねたように、美紀から離れた。


「俺のこん中にいるのはお前だけなんだ。だから珠希の真似なんかしなくても……」
正樹は胸を叩きながら辛そうに言った。
本当は抱きたくて仕方ないのに……


美紀は恥ずかしそうに俯いて、バスルームを目指した。


でも其処には珠希愛用のシャンプーしか無く、思い余った美紀は秀樹のミントシャンプーを手にした。


――ガチャ!
ドアの閉まる音がする。
振り向くと正樹が立っていた。

正樹は美紀を背後から抱き締めた。
男性用のミントシャンプーの香りに包まれながら美紀は女になっていく。
その日二人は初めて結ばれた。




< 229 / 229 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

十五歳の系図

総文字数/8,242

恋愛(純愛)3ページ

表紙を見る
不完全な完全犯罪ZERO

総文字数/207,424

ミステリー・サスペンス46ページ

表紙を見る
不完全な完全犯罪・瑞穂の叔父の事件簿

総文字数/22,942

ミステリー・サスペンス5ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop