トリプルトラブル
 「ごめん。お父さん嘘をついていました。美紀とお前達は本当の兄弟じゃないんだ」


「えっ! ウソ!」
直樹が声を張り上げる。
秀樹はすぐに直樹の口を手で塞いだ。


「知ってたのか兄貴」
うなづく秀樹。


「でも、さっき知ったばかりだ。ショックだったよ」


「そうか。それで様子がおかしかったのか」

直樹は秀樹の顔をマジマジと見つめた。
秀樹はくすぐったそうに視線をそらせた。


「パパ。美紀の本当のママって、パパの初恋の人だったの?」
秀樹の質問に、頷く正樹。


「同級生だった」


「もう一ついい? 叔母さん、美紀は本当はパパの子供じゃないかって」


「違う。絶対にそんなことはない。だって三年ぶりに再会した時、彼女は妊娠していたのだから」


「ママ知っていたの?」


「待合室で再会した時、ママには初恋の人だったって紹介した」


「正直だね」


「ママもそう言ってた。彼女が出産時に所持していた母子手帳には、父親の名前も書いてあったんだけど、既に亡くなっていたんだ。同じ施設で育った幼なじみだと聞いている」


「だからパパとママが育てることにしたの?」
正樹は大きく頷いた。


「双子も三つ子も大して変わらないよ。ママはそう言って笑ってた」


「ママらしいや」
直樹はそう言いながら、珠希の遺影に目をやった。


「だからママ、いつも笑っていたんだね。あんなに可愛い美紀のママになれたんだから」
言ってしまってから直樹は赤面した。

直樹は二人に気付かれないように、ずっと遺影を見つめた振りをしていた。

直樹は美紀を意識し初めていたのだ。




 正樹は思い出していた。
美紀を初めて胸に抱いた日のことを。


母である結城智恵の死も知らず、生きている証を伝えようとして懸命に泣いていた小さな美紀を。
この手に、この腕に、この胸に受け止めた大きな生命の重さを。


あの瞬間に感じた結城智恵への恋心。
初恋故の傷み。
その全てを理解し、美紀を養女として育てることを提案してくれた珠希。
今正樹は改めて、珠希の大きな人柄に感銘を受けていた。


珠希の誕生日に真実を告げる羽目になったのは、妻の意志ではないだろうか?
正樹はそう思えてならなかった。




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