トリプルトラブル
試合開始直前。
選手達はネットをはさんで集合し、ジャンケンをする。
負けたプレイヤーはラケットのへッドを地面につけて回すことが義務づけられている。
所謂ラケットトスは、美紀の手にしていた珠希の二本シャフトが使われることになった。
つまりジャンケンに負けたのだ。
でも相手側は言い当てられなかった。
公認マークがついている方が表で、回っているうちに表か裏かを言わなければならないのだ。
だからトスの勝者は美紀達だった。
「サーブ権でお願い致します!」
美紀は力強く言った。
二通りあるラケット。
前衛が良く使う二本のシャフトタイプと後衛が良く使うシャフトが一本のタイプだ。
珠希は前衛だった。
遺されのは二本のタイプのみだった。
でも本当はもう一本あったことを美紀は知らされていなかった。
それは生徒を指導する時に使用した一本のタイプだった。
正樹はその朝、それを美紀に渡した。
『一緒にプレーを楽しんでほしい』
そう告げながら……
それは正樹の入院中のことだった。
中学校の関係者が正樹の意識の戻ったとの情報を得て、珠希が愛用していた指導用のラケット二本を届けてくれたのだ。
それを正樹は珠希の柩に入れてくれるように秀樹に頼んだのだった。
でもその内の一本を美紀が見つけて抱き締めてしまったのだった。
正樹はその様子を見て、二つ共に遺すことを決意したのだった。
「レディ」
主審の声が響き渡る。
練習を終わりにしてください。
今からゲームを開始しますから、と言う合図だ。
プレイヤーは決まったポジションにつかなければならない。
「サービスサイド松宮高校松尾美紀……」
審判が読み上げる自分の名前を聞きながら、美紀は応援席に目をやった。
(――パパ、素敵な名前をありがとう。ママに恥じないようにプレイーするから見ていてね)
美紀は力強く、天国にいるはずの珠希に誓った。
それぞれの持ち場で全員が身構える。
「ママ力を貸して……」
二本のシャフトのラケットに語り掛ける。
美紀は前衛の位置で武者震いをしていた。
選手達はネットをはさんで集合し、ジャンケンをする。
負けたプレイヤーはラケットのへッドを地面につけて回すことが義務づけられている。
所謂ラケットトスは、美紀の手にしていた珠希の二本シャフトが使われることになった。
つまりジャンケンに負けたのだ。
でも相手側は言い当てられなかった。
公認マークがついている方が表で、回っているうちに表か裏かを言わなければならないのだ。
だからトスの勝者は美紀達だった。
「サーブ権でお願い致します!」
美紀は力強く言った。
二通りあるラケット。
前衛が良く使う二本のシャフトタイプと後衛が良く使うシャフトが一本のタイプだ。
珠希は前衛だった。
遺されのは二本のタイプのみだった。
でも本当はもう一本あったことを美紀は知らされていなかった。
それは生徒を指導する時に使用した一本のタイプだった。
正樹はその朝、それを美紀に渡した。
『一緒にプレーを楽しんでほしい』
そう告げながら……
それは正樹の入院中のことだった。
中学校の関係者が正樹の意識の戻ったとの情報を得て、珠希が愛用していた指導用のラケット二本を届けてくれたのだ。
それを正樹は珠希の柩に入れてくれるように秀樹に頼んだのだった。
でもその内の一本を美紀が見つけて抱き締めてしまったのだった。
正樹はその様子を見て、二つ共に遺すことを決意したのだった。
「レディ」
主審の声が響き渡る。
練習を終わりにしてください。
今からゲームを開始しますから、と言う合図だ。
プレイヤーは決まったポジションにつかなければならない。
「サービスサイド松宮高校松尾美紀……」
審判が読み上げる自分の名前を聞きながら、美紀は応援席に目をやった。
(――パパ、素敵な名前をありがとう。ママに恥じないようにプレイーするから見ていてね)
美紀は力強く、天国にいるはずの珠希に誓った。
それぞれの持ち場で全員が身構える。
「ママ力を貸して……」
二本のシャフトのラケットに語り掛ける。
美紀は前衛の位置で武者震いをしていた。