トリプルトラブル
 「うん、だから好きなの。私お母さんと二人暮らしなの。お父さんが死ぬ時に言っていたの。忍冬のように二人仲良く生きて行ってほしいと」

悲しい話をしているのに、少女は明るく言った。


その時直樹は、その二つの花が自分と秀樹のように思えていた。


(――サッカーなら一人でも出来る。でも野球は自分が居なくちゃ始まらない。兄貴には俺が必要なんだ)

直樹はその時やっと、秀樹と共に野球を続けることを決めたのだった。


直樹には、その少女が忘れられない存在になっていた。
それは直樹の淡い初恋だった。




 スイカズラは忍冬(にんとう)とも言う。
寒い冬も枯れることなく耐え忍ぶからだ。


直樹も悩みながら成長してきた。
だから自然と自分に重ねてしまうのだった。


そして今、最高の舞台に直樹はいた。

美紀を甲子園に、大阪に連れて行くために直樹は集中しようとしていた。


「美紀!」

直樹はありったけの力を込めてスイングした。


「ワーーーー!」

歓声が球場全体を包み込んだ。

直樹は一瞬、我を忘れていた。

慌てて見上げると打球はスタンドに吸い込まれた後だった。




 逆転満塁サヨナラホームラン。

劇的な幕切れだった。

凄まじい歓声と共にダイヤモンドを一周する直樹。
何が何だか判らず戸惑っていた。

「直樹ー!」
秀樹が抱きついてくる。

「スゲー! 直ー! 凄過ぎるぞ!」

大も泣きながら直樹を迎える。

直樹はもみくちゃになりながら、初めて野球を続けていて良かったと思った。

「甲子園だー!」
直樹が雄叫びを上げる。

感情を大爆発させて喜ぶ直樹。

こんな激しい直樹を今まで見たことがなかった。

スタンドで観戦していた正樹も体を震わせて泣いていた。




地元の新聞・メディアの取材を受ける直樹。

いつも秀樹の引き立て役だった直樹。

いきなり主役になり戸惑いを隠せない。

主役の座を奪われた秀樹も、功績を認めざるを得なかった。

「直ニイありがとう」
美紀は直樹の頬にキスをする。

照れて俯く直樹。

「よーし! 今度は俺が主役だー!」
秀樹が叫ぶ。

「違う俺だー!」
大も叫ぶ。

「よーし! 三人で競争だー! 今度は甲子園で勝負だ!」

恋のバトルは益々激しくヒートアップしていく様相をていしていた。

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