トリプルトラブル
恋心
七月の最終週。
秀樹と直樹が、高校野球に出場のために高校の用意したバスで甲子園球場に向かって出発して行く。
二人の顔付きは幾分違っていた。
満塁ホームランを打てたことが直樹の自信に繋がったのだ。
一方秀樹は、直樹のお陰で甲子園大会の出場が決まったことをやっかんでもいた。
自分の投手力だけで抑え込みたかったのだ。
勿論、野球は一人でやるものではない。
そんなことは百も承知だ。
それでも、ツーシームで勝てたと言われたかったのだ。
双子だから……
恋のライバルだから……
野球部のエースバッテリーだから尚更なのだ。
美紀に格好いいところを見せたかった。
その上で、甲子園に……
美紀の母親の出身地かもしれない大阪に連れて行ってやりたかったのだ。
甲子園球場では八月二日より練習が開始される。
組み合わせ抽選会は五日の予定だった。
だからその数日前から現地に向かわないといけないのだ。
ホテルや練習場の確保と言った案件で、遣らなくてはいけないことが目白押しだったのだ。
直樹も秀樹も、美紀が心配だったのだ。
許されるもなら、一緒に出発したかったのだ。
それを見送った正樹と美紀も、その場から車で大阪に向かって出発しようとしていた。
美紀はあることを試してみたくてウズウズしていた。
勿論初挑戦。
そのために今、車のドアの前にいた。
美紀はまだ一度も助手席に座ったことがなかった。
其処は何時も珠希の席だった。
だから子供の時から後部座席だったのだ。
死後五年を経ても尚、ママとしての存在感は不滅だったのだ。
それは、娘にとって脅威だった。
だからまだ、一歩を踏み出せないでいる美紀だった。
――カチャ。
意を決して、初めて助手席側のドアを開けた。
(――ママ許して……
――私パパの隣に座りたい。どうしても座りたい!)
足をマットに置こうとやっと一歩踏み出してみた。
でも駄目だった。
又乗ろうと試みてみた。
そして又決意が揺らぐ。
美紀はその場で呆然としたままで助手席を見つめていた。
秀樹と直樹が、高校野球に出場のために高校の用意したバスで甲子園球場に向かって出発して行く。
二人の顔付きは幾分違っていた。
満塁ホームランを打てたことが直樹の自信に繋がったのだ。
一方秀樹は、直樹のお陰で甲子園大会の出場が決まったことをやっかんでもいた。
自分の投手力だけで抑え込みたかったのだ。
勿論、野球は一人でやるものではない。
そんなことは百も承知だ。
それでも、ツーシームで勝てたと言われたかったのだ。
双子だから……
恋のライバルだから……
野球部のエースバッテリーだから尚更なのだ。
美紀に格好いいところを見せたかった。
その上で、甲子園に……
美紀の母親の出身地かもしれない大阪に連れて行ってやりたかったのだ。
甲子園球場では八月二日より練習が開始される。
組み合わせ抽選会は五日の予定だった。
だからその数日前から現地に向かわないといけないのだ。
ホテルや練習場の確保と言った案件で、遣らなくてはいけないことが目白押しだったのだ。
直樹も秀樹も、美紀が心配だったのだ。
許されるもなら、一緒に出発したかったのだ。
それを見送った正樹と美紀も、その場から車で大阪に向かって出発しようとしていた。
美紀はあることを試してみたくてウズウズしていた。
勿論初挑戦。
そのために今、車のドアの前にいた。
美紀はまだ一度も助手席に座ったことがなかった。
其処は何時も珠希の席だった。
だから子供の時から後部座席だったのだ。
死後五年を経ても尚、ママとしての存在感は不滅だったのだ。
それは、娘にとって脅威だった。
だからまだ、一歩を踏み出せないでいる美紀だった。
――カチャ。
意を決して、初めて助手席側のドアを開けた。
(――ママ許して……
――私パパの隣に座りたい。どうしても座りたい!)
足をマットに置こうとやっと一歩踏み出してみた。
でも駄目だった。
又乗ろうと試みてみた。
そして又決意が揺らぐ。
美紀はその場で呆然としたままで助手席を見つめていた。