トリプルトラブル
 『ストレートもまともに投げられない奴に、変化球が投げられる訳がない!』
コーチの言葉が脳裏を掠める。


(――俺の場合、手首をひねって親指が上に来るから危険なんだ)

解っていながらやっていた未熟者だった自分を思い出す。


(――でも……
外に向かって曲がるボールだからその方向に手首をひねってしまうけど、ストレートと同じでいいって直樹に言われた)


今、甲子園の晴れ舞台。


(――このマウンドに立たせてくれたコーチと直樹の行為に報いるために……)

秀樹は直樹の指示通りに初めてカーブを投げた。


「ストライク!!」
主審の声が響き渡った。




 勢い付いた秀樹は、密かに練習を重ねてきたボールを投げてみたくなった。
それはコーチから聞いた大リーグに挑戦している日本人ピッチャーが開発した魔球だった。


それはツーシームを更に変化させたワンシワームだった。


秀樹はそのピッチャーの映像を解析して、何とか自分の物にしようとしていたのだった。


それともう一つ開発したボールがあった。

それはSFBと呼ばれている球種だった。


ツーシームで握った人差し指と中指の間隔を少し広げて投げることでそれは生まれる。


所謂シンキングファーストボールのことだ。
アジア圏ではシンカーなどとも呼ばれているようだ。


シンカーとは、直球の軌道から曲がりながら落ちるボールのことだった。


ワンシワームもシンカーのように変化すると言われているそうだ。


次に秀樹がどんな球種を投げるかは、直樹との駆け引きによって決まるのだ。




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