トリプルトラブル
美紀は沙耶に甘えながら、正樹を愛した産みの母の苦しみことを思っていた。
正樹が大好きだった智恵は中学卒業後一人暮らしを始めた。
元施設長を保証人に頼んで、正樹の実家の近くにアパートを借りた。
少しでも近くにいたかったのだ。
そんな事情を知らない正樹は、結婚の準備を着々と進めていたのだった。
傷ついた智恵を慰めたのが美紀の父親である真吾だった。
心の底から愛を捧げて、また支えてあった。
やがて二人の間に美紀が宿った。
天涯孤独の者どおし、やっと巡り会える家族。
真吾は幸せに酔った。
どうしても結婚と妊娠した事実を発表したいと真吾は焦った。
智恵を日の当たる場所に出してやりたかったのだ。
出来れば、本当の親に逢わせてやりたかった。
子供が産まれる前に……。
だから事務所の反対を押し切って結婚している事実を公表したのだ。
『本日はお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。実はご報告致したい事実がございまして……』
真吾は胸を張り、幸せを噛みしめながらマスコミにコメントした。
美紀は確かに二人の愛の結晶だったのだ。
結婚と妊娠を明かしたことによってまさか智恵が襲われることになろうなんて。
真吾は全く考えてもいなかったのだ。
狂気から家族を救うために、自ら犠牲になった真吾。
子供の頃からただ智恵だけを愛し、見つめてきた真吾にとっては何事にも代えられない大舞台だったのだった。
それはどんな犠牲もいとわない智恵に対する無償愛だったのだ。
「母は本当は誰を愛していたのでしょうか?」
美紀が資料をしまいながら言う。
「うーん、解らないわ」
沙耶が言う。
でも本当は沙耶は知っていた。
正樹を愛していたから、美紀に憑依したことを。
もし自分が死んでも、正樹と珠希なら自分の子供を育ててくれるだろうことも。
だから美紀に……。
『大きくなったらパパのお嫁さんになる』
そう言わせていたことも。
沙耶は結城智恵が愛おしくさえ思えていた。
それは沙耶の抱えているある感情がそうさせたことを、沙耶自身さえも気付いていなかった。
沙耶はただ珠希の魂も、結城智恵の魂も癒してあげたいと思ったのだ。
沙耶にとっては、結城智恵も特別な存在だったから……
正樹が大好きだった智恵は中学卒業後一人暮らしを始めた。
元施設長を保証人に頼んで、正樹の実家の近くにアパートを借りた。
少しでも近くにいたかったのだ。
そんな事情を知らない正樹は、結婚の準備を着々と進めていたのだった。
傷ついた智恵を慰めたのが美紀の父親である真吾だった。
心の底から愛を捧げて、また支えてあった。
やがて二人の間に美紀が宿った。
天涯孤独の者どおし、やっと巡り会える家族。
真吾は幸せに酔った。
どうしても結婚と妊娠した事実を発表したいと真吾は焦った。
智恵を日の当たる場所に出してやりたかったのだ。
出来れば、本当の親に逢わせてやりたかった。
子供が産まれる前に……。
だから事務所の反対を押し切って結婚している事実を公表したのだ。
『本日はお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。実はご報告致したい事実がございまして……』
真吾は胸を張り、幸せを噛みしめながらマスコミにコメントした。
美紀は確かに二人の愛の結晶だったのだ。
結婚と妊娠を明かしたことによってまさか智恵が襲われることになろうなんて。
真吾は全く考えてもいなかったのだ。
狂気から家族を救うために、自ら犠牲になった真吾。
子供の頃からただ智恵だけを愛し、見つめてきた真吾にとっては何事にも代えられない大舞台だったのだった。
それはどんな犠牲もいとわない智恵に対する無償愛だったのだ。
「母は本当は誰を愛していたのでしょうか?」
美紀が資料をしまいながら言う。
「うーん、解らないわ」
沙耶が言う。
でも本当は沙耶は知っていた。
正樹を愛していたから、美紀に憑依したことを。
もし自分が死んでも、正樹と珠希なら自分の子供を育ててくれるだろうことも。
だから美紀に……。
『大きくなったらパパのお嫁さんになる』
そう言わせていたことも。
沙耶は結城智恵が愛おしくさえ思えていた。
それは沙耶の抱えているある感情がそうさせたことを、沙耶自身さえも気付いていなかった。
沙耶はただ珠希の魂も、結城智恵の魂も癒してあげたいと思ったのだ。
沙耶にとっては、結城智恵も特別な存在だったから……