トリプルトラブル
 気を取り直して、美紀は調理台の前に立った。

まずガナッシュを作る。

いわゆる生チョコレートと呼ばれている物で、チョコレートを熱い生クリームや牛乳で溶かして作る。

これにリキュールを加えて、泡立て器でぐるぐる混ぜる。


でもそれは正樹用だった。

まだ未成年の、お子様三人には別のノンアルコールな物を加えた。


室温で少し冷ました後、丸い口金の付いた袋に入れてココアの入ったバットの上に絞り出す。

兄弟用に二十一個作った。
六個ずつケースに詰めて、残りは試食用にするためだった。

そのための小さなお皿がその横に置いてあった。


ココアごとガナッシュをすくい、掌で丸める。

そうすることにより、手にくっ付きにくくするのだ。

これは珠希のアイデアだった。


油を薄く塗ったお皿の上に搾り出す手間と、洗い物を少なくする工夫だった。

どうせ手にココアを付けなくてはいけないのだ。
それならいっそ、たっぷりのココアの中に入れればいい。
そんなとこだった。




 再びココアの入ったバットに戻し、ガナッシュを転がしながら絡ませる。


「軽くふわっと絡ませる」

美紀は珠希のレシピを忠実に再現した。
そしてやっと、バレンタインデー用トリュフが完成したのだった。


美紀は仏間へ行き、小さなお皿を供えた。


「ママ一つ頂戴」
そう言いながら、三個のトリュフチョコの内の一つを摘み頬張った。

残りは珠希と智恵と半分こ。

何時もとは違う何か……

別に智恵のことを蔑ろにしていた訳ではないが、沙耶に打ち明けたことによって、より身近な存在になっていたのだ。


「美味しい。流石だね、ママ」

美紀は自分自身で作り上げておきながら、珠希と一緒に調理したと思っていたのだ。

その中に智恵も入っていてくれたら嬉しいと美紀は思っていたのだった。


でも本当は……

珠希が亡くなって五年。
美紀は未だに珠希の亡霊から解放されないでいたのだった。




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