約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く
「雅姉さま、あっ……あの晋兄は?」
そう言うと、雅姉さまは「晋作は家に居ないわ。今は長州藩のお尋ね者だもの」っと寂しそうに呟いた。
「ごめん。雅姉さま……」
「いいわよ。
舞ちゃんは気にしなくて。
晋作に会いに来たのね。
昔から舞ちゃんは晋作が大好きだった。
舞ちゃんが長州を旅立った後にね、あの人、帰って来たのよ。
ふらふらっと。
家族で生活できると思ったけど脱藩の罪に問われて投獄。
相変わらずよね」
雅姉さまは私が知らない晋兄の身に起きた出来事を
ゆっくりと語ってくれた。
「そうそう、晋作から手紙が来てたのよ。
舞ちゃんだったらいいわ。
持ってきてあげる」
そう言って雅姉さまは、私が休ませて貰ってる客間から姿を消す。
遠さがった足音を聞きながら私はその場から立ち上がって、
あてがわれた部屋を散策する。
遠い昔も、遊びに来てお泊りの日は
この部屋で寝させてもらった。
広い部屋に一人で寝るのが怖くて、
晋兄の着物をギュっと握りしめたら
晋兄は、私の髪をワシャワシャと撫でて
そのまま私が眠るまで添い寝してくれた。
そんな思い出の部屋。
部屋の柱。
そうそう、この柱だ。
懐かしくなって思わず触れた傷跡は、
私の成長の記録を晋兄が刻んでくれた証。
この一番低いのが私。
こっちが義兄。
そして、この傷が……晋兄。
そんな懐かしい思い出を振り返りながら、
心がチクリと痛むのは、もう義兄が居ないから。
義兄……ちゃんと近くに居る?
私、今……萩に帰って来てるんだよ。
あの日、私たちが三人で生きていた証が
この柱にはちゃんと刻まれてるんだよ。
そんな傷跡を何度も撫でるように触れながら
私はその場で、座り込む。
もうすぐ……晋兄も旅立つ。
この柱には、生きた証は刻まれても私しか生き残らない。
そんな悲しみが押し寄せてくる。
この先の未来の結末を間接的にでも知ってしまったから
あの時よりも、心は悲鳴をあげる。
それでも……だからこそ、見届ける過ごした方もあるのだと、
親友(とも)は教えてくれた。
だから……私は前を向いて歩き出せる。
ねぇ……義兄。
ちゃんと晋兄に会えるように見守っててよ。
「舞ちゃん、入るわね」
そう言うと、雅姉さまは再び襖を開けた。
手に持っているのは晋兄からの手紙。
「全部でこれだけかしら?
あの人、手紙だけは律儀に送ってくるのよ。
ホントに男って勝手よね」
そんな風に言いながらも、口元が微笑んでるのは、
雅姉さまも晋兄の優しさと想いを知っているから。