約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く
72.動き出す最後の扉 -舞-
『総司っ。嫌っ、死んじゃ嫌っ。
ほらっ、いつもみたいに笑ってよ。
声を聞かせてよ。
総司ぃぃぃぃぃぃっ』
ふいに何処からか、瑠花の泣き叫ぶ悲痛な声が聞こえた気がした。
キョロキョロと周囲を見渡しても誰もいない。
だけどその声は私の中で徐々に大きく響いていて、
耳を塞いでも聞こえてくる不思議な声だった。
瑠花?
多分、瑠花に何かあったのかもしれない。
心のざわつきが鎮まる様子も見えないまま、
私は一人屯所を飛び出してふらふらと山の方へと走りだす。
「加賀、何処に行く?」
私の単独行動を見透かすように、何処からともなく姿を見せて声をかけるのは斎藤さん。
「私、あの場所に行かなきゃ。
扉を開かなきゃ、いけないんです。
瑠花が待ってるから」
多分、事情を知らない人が聞いたら意味不明なことを口走ってたと思う。
それを口走った私ですら、今のこの幕末でその場所に出掛けたことはない。
遠い記憶の中の幕末の時代に、もう一人の舞がいつもお祈りに出掛けていた山の中の岩神さま。
何故か、その場所に行かないといけない気がして、
私は自分ですらもどこを走っているかわからないまま、
ひたすらその場所を目指すように山の中を駆け続ける。
周囲には雷鳴が轟き、雨が降りしきる肌寒い季節。
びしょびしょに濡れてしまうのも気にせずに、
私はひたすら山の中を上へ上へと駆け続けた。