約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く
「野村望東尼(のむらもとに)。
福岡藩の中村円太さんの縁で、
こうして高杉さんのお世話をさせて頂いています。
遠路、京より高杉さんを訪ねてお疲れ様です」
そう言って迎え入れられたその場所は何だか、
懐かしい感じのする温かい空間だった。
「モトさんは、今やオレたちに取って
母親的存在の人だ。
舞が思っているようなそんな人ではないよ」
庵で暮らす日々は俗世の出来事を全てなかったかのように、
切り離された穏やかな生活。
ゆったりとした時間が流れていく。
「高杉さん、一句書き記しました」
そう言って、私と晋兄が過ごす部屋へ
そっと置いて帰った歌。
晋兄は、その句を手にして
ただ……遠い空を見つめた。
晋兄の手から、
その句を抜き取って私も見つめる。
*
冬ふかき
雪のうちなる梅の花
埋もれながらも
香やは隠るる
*
そう記された歌。
冬の最中の雪の中にある梅の花は
雪に埋れると香りは隠れるのであろうか、
いや決して隠れはしない。
そう言う意味で綴られたであろう歌。
多分、この梅は晋兄の事なんだ。
だから晋兄は、友を思いながら、
空を見つめてるのかもしれない。
「舞、オレは山を下りる。
まだオレにはやるべきことがありそうだ」
「うん。
モトさんの歌、力強いね。
ホント、お母さんみたいな温かい懐の深い人だね」
晋兄を戦いの道にもう一度送り出そうとしているけど、
だけど……それは晋兄の強さを知っているからなんだと
感じることが出来たから。
「あぁ。
それより舞、お前はどうする?
オレはこれから戦の中に身を投じる。
舞が来ても、辛いだけではないか?
おうのの元か、雅の元に身を寄せるか?」
そう言った晋兄に私は逆らうように首を振る。
「晋兄、私は晋兄と闘うために来たの。
京でね、義兄の最期を見送ったの。
ちゃんと見届けたよ。
義兄、鷹司邸の庭でお互いの刀で、
お互いのお腹を貫いて旅立った。
ちゃんと……武士としてかっこよかったんだよ。
義兄のお墓はね……」
ちゃんと伝えようとしたのに、
涙が邪魔をしてなかなか言葉に繋がらない。
ちゃんと伝えるって決めたのに。
「義兄の……ヒック、
お墓はね……お辰さんが……」
泣いて思うように言葉が紡ぎだせない私を
晋兄は自分の方へと抱き寄せてくれる。
「もういい。
舞、泣くんじゃねぇ。
旅立つ時に、お前が近くに居たんだ。
アイツも寂しくなかっただろうな。
辛かったな……」
晋兄の声は何処までも優しくて、
晋兄の温もりに包まれるように私は泣き続けた。