約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く


「おやっ、珍しいお客様ですね。
 花桜くんは、今は道場ですよ」



立って出迎えてくれる山南さんの声に誘われるように
室内へと足を踏み入れる。



初めてお邪魔した彼の部屋は書物に囲まれた空間。



「凄い本ですね」


思わず零した声に、彼はゆっくりと笑って
私が座りやすいように場所を指示(さししめ)した。


「山南さん。
 花桜の事はどう想いますか?」



花桜の事はどうおもいますか?って
私、何突然切り出してるんだろう。



自分でも慌てるような質問を切り出してしまった自分自身に
びっくりする。



「唐突な質問ですね。

 ですが……その真っ直ぐな眼差しを見るに
 大切な答えのようですね。

 花桜君の存在は、
 日々、私の中で大きくなっていますよ。

 彼女に支えられる時もある。
 彼女は強くなりましたね」




山南さんはそう言いながら、視線を道場の方へと向けて、
負傷したらしい腕をもう片方の手で押さえた。



もしかして……思い通りに動かない腕に
苛立ちや疼きを感じてるのかな?


そんな風に感じた。




「良かった。
 花桜にとって、山南さんはとっても大切な存在だから。

 だから山南さんにとっても、花桜の存在が
 そんな存在だったらいいなーって思ったんです。

 今度はもう少し突拍子もないこと言います。

 山南さん、花桜の為に今すぐ明里さんと出掛けてください。

 今日の夜にも近藤さんが帰ってくる。

 彼が帰ってきたら、山南さんの居場所がなくなる。
 未来の歴史はそうなってるんです」



一気に言い切った私はチクリと痛む胸に静かに手を当てる。


未来を知ってるからって、
次から次へと、その出来事を宣告していく私。



残酷なことしてる。



知らずに過ごせれば、 
もっと穏やかに過ごせたかもしれない。


その未来を知って、
喜ぶ人も居るかもしれない。



だけど大抵はそうはならない。



何とかしたい一身で、知りたくもない未来の出来事を告げる私は
ある意味、言葉で人を刺殺してるのと同じ。



生身の血が出ることのない刃。
言刃(ことば)。



言刃を私は突き立てる。




「岩倉君が未来から来たこと。

 そして今までにも何度かこういう出来事がありましたね。
 次は私がその出来事の中心人物となりうるのですね」



山南さんは、責めるでもなく私を労るようにすら感じられるほど
優しくゆっくりと告げた。
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