約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く
「近藤さんが京に戻ってる今、彼の傍には藤堂平助さんと
同門の伊東甲子太郎って人が来るんです。
この人が来て、近藤さんはだんだん変わってしまう。
それに新選組の編成が変わって山南さんの居場所がなくなってしまう」
そう、山南さんの居場所がなくなってしまう。
この屯所で生活するための僅かな光すら見失ってしまう。
そう言われているから。
「私の居場所が……そうですか」
山南さんは静かにそう告げると、
ゆっくりと目を閉じて小さく息を吐き出した。
「山南さん。
山南さんに何かあったら花桜が悲しむの。
花桜をもう辛い目にあわせたくないの。
だから……」
だからお願い。
まだ逃げられるうちに運命から逃げ出して。
そしてその運命すら、なかったことにして欲しい。
花桜と明里さんと山南さんと三人でこの場所から逃げて貰う。
花桜は何処かのタイミングで未来に帰れるかも知れないけど、
山南さんと明里さんがいれば、花桜の山波家は存続されるし、
花桜の遠いご先祖様も山南さんに会える未来に変わるかもしれない。
何考えてるんだうろ。
自分でも、笑っちゃうほど次から次へと想像だけが膨らんでいく。
山南さんの死が回避された時の物語。
だけどそれは……夢であることには違いなくて。
「山南さん、それにこのままじゃ土方さんとも衝突しちゃう。
山南さんが新選組の中で孤立してしまうから」
ただただ、山南さんの気持ちを動かしたくて
必死に告げる言刃(ことば)。
暫く続いた沈黙の後、彼はただ穏やかに微笑んだ。
不気味なほど、静かに。
そしてその静かな瞳の奥には何か芯があるようにも感じた。
ダメなの?
そんな不安が過ったのと彼が話し始めたのが同じ頃。
「花桜君は良い友達を持ちましたね。
岩倉君、私にとっても彼らがそうなのですよ。
岩倉君のお気持ちだけ確かに頂くことにします」
えっ?
山南さんもその運命を受け入れるって事?
真実がどちらが正しいかなんてわかんないけど、
こうして、また身近になった新選組の人たちを何も出来ずに失ってしまうの?
「さっ、近藤さんが帰ってくるんですよね。
総司が喜んでいるでしょう。
貴女は彼のところへ。
アナタはここに来てはいけません」
そうやって静かに告げた山南さんは再び書物へと視線を映した。
読書に集中しはじめた彼の邪魔をすることは出来なくて
そのまま私は黙って一礼すると部屋を後にする。
どうしようも出来ない?
私がダメなら、花桜から。
そんな思いで山南さんの部屋を後にして
花桜を探して庭へと向かった時、
満面の笑みで総司が私の方へと近づいてくる。
「瑠花、近藤さんが帰ってきました。
待ちきれなくて、途中まで迎えに行っちゃいました」
そんなテンションの高い総司とは裏腹に、
私は回避できない現実に心が荒れていく。