約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く
51.晋兄が動く日 -舞-
「舞、行くぞ」
その朝、晋兄は朝食を食べた後
立ちあがって告げた。
モトさんは、そんな晋兄を優しく見守りながら、
旅のお供にと、おむすびを握って手渡してくれた。
「高杉さん気を付けて。
舞さん、またお二人で来てくださいな」
そう言って柔らかに微笑んで
送り出してくれるモトさん。
そんなモトさんに見送られながら
下山していく私たち。
晋兄の歩くスピードは速くて、
私は道の悪い山道を必死に追いかけてついていく。
ただでさえ道が悪そうなのに、
雪道って言うのがまた私を苦戦させる。
ズボっと積雪の中に挟まった足を必死に持ち上げながら
前進していく。
「舞、大丈夫か?」
なかなか追いついてこない私に、
晋兄は立ち止まって迎えに来てくれる。
そのまま私の前に立って腰をかがめる。
「ほらっ、足元悪いだろ。
おぶされ、もう少し先まで行ったら歩きやすくなる」
「晋兄……」
「ほらっ、早く来い。
下山したら舞を楽しませてやるよ」
戸惑いながら負ぶさる私を落とさないように
両手を後ろに回して支えるとゆっくりと立ち上がって歩き出した。
二人分の重みで、スボスボと沈む雪道。
それでも晋兄は、
一歩ずつ何事もないように前進していく。
歩きやすい道になっても、
負んぶしたまんまで、下山した晋兄は
何処かの宿へと入っていく。
「あらっ、ご無沙汰」
「そうだな。
ちょいとコイツ頼むわ」
そう言って、晋兄はようやく私を背中からおろすと
そのまま何度も来たことがあるのか
我が家のように宿の中へと入っていく。
「あらっ、珍しい。
高杉さんが可愛い女の子連れてるなんて。
さぁ、どうぞ。
外は寒かったでしょ?
お風呂で温まって」
そう言って私を広いお風呂へと案内した。
そこは、天然温泉が湧き出ているらしい
大きな露天風呂。
外の雪が降る寒さと中の温かさ。
ちらちらと降る、雪を見ながら入る
露天風呂は風流だけどお湯の中から体を出すと寒くて
ズルズルとお風呂からあがれないまま時間が過ぎていく。
中は暖かいのに外は寒すぎるよ。
だけどそうも言ってられなくて、
ふらふらっと上せそうになったのを境に
寒いのを一気に上がって、脱衣場へと駆け出した。
脱衣場の私の着物が入っていた籠には、
真新しい着物。
戸惑いながら、他に着るものもなく
寒いので手に取ると、手早く身につけた。
鮮やかな色の着物は今まで着ていた、
渋めの着物とは違っていて戸惑いを隠せない。
だけどそれを着るしか、
この場所から出る術はない。
寒さも重なって、新しい着物を着付けたまま
外に出ると、晋兄が親しげに話していた
お店の人が私を奥の部屋へと案内してくれた。
そこには晋兄が腕を立てて頭を支えながら
体を横たえて休んでいた。
着流しから、晋兄の素肌がチラリと見えて
思わず目をそらす。