約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く


そう……ある朝、山南さんの部屋を訪ねた時には、
その部屋は空っぽで布団も綺麗に畳まれてた。



「瑠花……山南さんが見つからないの」


そうやって肩を落とす花桜。



「ほらっ、山南さんは明里さんのところかも知れない。
 私もついていくから、ほらっ」


花桜の手をひいて、屯所の中庭を通り抜けると
京の町へと飛びだした。


決して治安がいいとは言えない
その町の怖さを知らないわけじゃない。


だけど……今は私がしっかりしなきゃ。




「山波、岩倉、こんなところで何をしてる」


二人、手を繋いで駆け抜ける背中に、
聞きなれた声がかかる。



「さっ、斎藤さん。

 すいません、急いでるんです。
 見逃してください」


口早に告げると、逃げるように立ち去ろうとする私を
斎藤さんは掴んで告げた。


「女二人の京の町は危険だ。
 俺が警護する」


そう言って無言で、行けと言うように視線を向ける。


「ほらっ、花桜。

 斎藤さんが警護してくれるから安心だよ。
 次はどっち?」


花桜を促すように告げると、キョロキョロと視線を向けて
また明里さんの住む長屋を目指して走り出す。


「明里さん、明里さん」


長屋の障子の前で花桜は、
明里さんの名前を呼び続ける。



だけど、中から人が出てくる気配はない。



「明里?

 そうか……山南さんの女か……」



斎藤さんが独り言を紡ぐように吐き出すと、
私と花桜を残して、長屋の他の家を訪ねてくれる。



「岩倉くん、山波くん。

 その部屋の女だが、今朝方旅支度を整えて
 出掛けるのを見たらしい」



斎藤さんの言葉を受けて花桜は黙って、私を見つめる。



「何があった?」



体を震わせる花桜をそっと抱き寄せながら
私は斎藤さんに今朝から山南さんの行方が
わからなくなっていることを告げた。


「岩倉くん、山波くん、屯所に戻る」


力が抜けてしまったのか震え続けて、
思うように走れない花桜を斎藤さんは軽々と背負って、
私を気遣いながら屯所へと急ぐ。


屯所に戻った時には旅支度を整えた、
総司が中庭から馬を連れて姿を見せたところだった。


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