約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く


「お客さん、
 落ち着きはったみたいやなー」


そう言いながら、茶屋の女の人は
温かいお茶とお団子をゆっくりと並べてくれた。


丞は沖田さんの様子が落ち着くのを
確認するように傍に居る。


そんな光景を見つめていた私に、
聞きたかった優しい声が降り注ぐ。




「花桜君、君も来てしまったんだね」


溜息と共に吐き出すように告げた山南さん。


「花桜ちゃん?
 山南さん?」


戸惑うような表情を見せる明里さん。


明里さんはただ、
私と山南さんの顔を交互に見つめる。




「山南さん、逃げてください」



私が言いだそうとした言葉が、
別の声から発せられる。


そう……山南さんを追ってきたはずの
沖田さん。



「今の僕は発作を起こしたばかり。
 隙だらけの僕に山南さんを捕まえる術はありません」


そうやって告げられた言葉は、
懇願するようにも感じられて。



「そうです。

 沖田さんが心配だったから、前に進めなかった。
 沖田さんの事は丞が山崎さんが見てくれる。

 だから……山南さんは明里さんと行ってください」


そうやって勢いに任せて告げる言葉。



「総長、沖田隊長はわいに任せて行ってください」




私たちが、どれだけの想いをこめて
告げても……その心は届かなかった。




ううん……。
届いていたのかもしれない。



だけど私たちの言葉をもってしても、
山南さんの覚悟は、変えることが出来なかった。




その場所から動くことをしない山南さんは、
その日から、近くの宿を手配して私たちを連れて行く。



その後は、沖田さんの体が落ち着くまで
その場所で過ごし続けた。


五人で過ごす穏やかな時間。


そんな時間が、ずっと続いてほしいと
願わずにはいられなかった。



そんな望みも突然の終わりを告げる。




「帰りましょう」




静かに切り出された山南さんの言葉。




その言葉に逆らいたいと思いながらも、
逆らうことは出来なかった。

その目が……、この現実から逃げる心を
許してくれなかった。


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