約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く




祈るような思いで、
夜空に輝く星を見つめる。




ゆっくり落ちていく流れ星。




それを何度も見送りながら、
私は一つの答えを見つける。






その命が流れる瞬間を私は見届ける。




それが……私が山南さんに出来る
精一杯の感謝の気持ちだと思えた。




その想いを胸に、沖影を抱えて
近藤さんと土方さんの部屋へと向かう。



その最期に……傍に居させてほしいと伝えるために。





近藤さんの部屋を訪ねた時、
彼はその場所には居なかった。



その次に、土方さんの部屋へと向かう。



その場所に、障子ごしに聞こえてくるのは
他の幹部たちと言い争う声。




山南さんの切腹をやめさせようと
何度も何度も、切り出す隊士たちの声。


その隊士たちに向かって、
切り捨てるように『てめぇも死にてぇか?』なんて
言葉を浴びせ続ける土方さん。




「もう知らねぇー」



そうやって飛び出していく
土方さんの部屋に居た来客たち。


そんな人たちの背中を見送って
私の姿を捉えた、その人が告げる。



「てめぇは、何の用だ?」



その言葉に私は、食いつくように歯を噛みしめて
土方さんの部屋にお辞儀をして入る。


土方さんの向かい側に座って、
勢いよく吐き出した。



「決まった未来なら私は贖いません。
 山南さんは、何を言っても自分の意志を変えることはないから。

 だからお願いします。
 私にも山南さんの最期を見届けさせてください」


そう切り出した私に、土方さんは驚いたような表情を浮かべるも
すぐにいつもの何も伺わせない表情へと戻る。



「てめぇ、自分が言ってることわかってんのか?」



突き刺すように告げられた言葉に、
私は静かに頷く。



「てめぇに、首を落とせるか?」



そうやって問われた言葉に、
私は唇を震わせながら、睨み返した。



「出来るようになったら、
 最期を見届けさせてくれるの?

 二言はない?」

「あぁ」

「だったら……やって見せる。
 やり方を教えて」



そうやって言い返した途端、
土方さんは何故か斎藤さんを呼び寄せて
私に指南するように告げた。




刻一刻と過ぎていくその時間に私は、
藁と竹を相手に何度も何度も沖影を振るっていく。




何やってるんだろう。





斎藤さんが振るうようにスパンっと、
一刀することが出来ない現実。



所詮、飾りだけの剣術しか知らない私に
何度も修羅場を経験した実践の剣。


力量を見せつけられながらも、
何度も、出来るまで繰り返し続けることしか出来なかった。


山南さんの最期の時間が来るまでに、
首を落とせるようになってなければ、
土方さんは認めてくれない。


ただ無心に心を静めて見据えた一点だけに集中して。



呼吸を整えて、一気に迷いなく振り下ろした時、
手応えと共に上に伸びていた藁と竹が
地上へと引力に引き寄せられるように落下していく。



「お見事」



ずっと付き合ってくれていた斎藤さんが小さく告げる。


「山波、副長には伝えておく。
 立ちあうのだろう」


その言葉にゆっくりと頷いた。




最期の時間が近づいた時、
土方さんが私の前に姿を見せる。




「山波、山南さんの羽織を纏え。
 そして山南さんの居る部屋へ迎えに行け」



告げられるままに私は山南さんから託された羽織を纏い
その部屋へと向かう。




「失礼します。
 山南さん、山波です」



そうやって告げて、お辞儀をして襖を開けると
そこには夢に見た真っ白い装束を身に着けて静かに座ってる優しい人が居た。


これから旅立つと言うのに、凄く穏やかな笑みを携えるその人を
私は涙で視界を滲ませながら見つめる。



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