約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く
「ねぇ、晋兄。
向こうで皆が呼んでるよ」
そうやって晋兄の元を訪ねた時、「あぁ。今行く」と言って立ち上がった晋兄が急にせき込み始めた。
手慣れた雰囲気で懐から、手ぬぐいを取り出して口元をおさえる。
「晋兄?」
慌てて駆け寄って晋兄の背中をさすると、
落ち着かせたところで、水がある井戸の方へと歩き出す。
井戸水を桶に組み上げると、晋兄は無言で口元をおさえていた手ぬぐいを洗い始める。
無色の水の色に血の色がやんわりと広がって溶け込んでいく。
「何、舞、心配しなくてもいい。
こんなのは酒飲んで寝とりゃ治る。
ただ今は寝てる場合じゃねぇ。
後一踏ん張り頑張るさ」
そう言うと晋兄は、何事もなかったように仲間たちの方へと向かっていく。
仲間たちに迎え入れられて晋兄は再び三味線を鳴らしながら歌い続ける。
手拍子や笑い声で賑わう。
そんな笑い声が木霊する時間は、この場所が戦場であることすらも束の間忘れさせてくれるようだった。
長州勝利にて幕府との和解がなり幕府サイドでは第二次長州征伐、
長州サイドでは四境戦争と言われる戦いは幕を閉じた。
確かその背景には14代将軍徳川家茂の死もあったと思うけど、
そんな情報がこの地に届くまでにはもう少し時間がかかるみたいだった。
戦いが終わって晋兄は桜山神社の近くに小さな家を建てて療養生活を送り始める。
その場所でも、相変わらず雅姉さまと、おうのさんの女の戦いは静かに繰り広げられていた。
病床に居ても晋兄を慕う人は多く、次から次へと客人はある。
そんな中、いつも冷静な晋兄が慌てるような素振りを見せた時もある。
その理由を私は後で知ることになる。
そう……、晋兄の恩人であるモトさんがお孫さんと共に流刑されていた姫島から脱出させることだった。