約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く
64.瑠花が教えてくれた影 -花桜-
「山波、後で顔を出せ」
朝餉の席で、土方さんに声をかけられた。
瑠花が広島へ出掛けた後も、
近藤さんたち他の隊士の人たちは一度帰ってきて、
再び、広島へと向かった。
二度目の広島行きからも、すでに帰ってきてる。
だけど丞は未だに、私の部屋を訪ねてこない。
多分、彼はまだ仕事中なのだと思う。
広島から出掛けていた人たちが帰ってきた後、
屯所内はいつもと同じように見えて、何か違って見えた。
派閥というか、グループみたいなものが、
傍から見て明確にわかれてきているような気がする。
隊士たちは日々、道場で鍛錬を頑張っている声は轟くものの、
次々と粛清されていく隊士たちの存在に、
恐怖や不満を覚えていく人たちの声も、ひそひそと聞かれるようになった。
そんな声を知りながらも、土方さんは態度を変える気がないみたいで、
新選組の中でも、何処か孤独に何かと戦っているようにも映った。
朝餉の後片付けを終えると、私は約束通り土方さんの部屋を訪ねた。
「遅くなりました。山波です」
「入れ」
部屋の主の許可をもらって襖に手をかけて中に入ると、
土方さんは今日も筆を手に仕事をしているみたいだった。
「おぉ、山波。呼んだのはこれだ」
そう言って土方さんが私の前に差し出したのは、
花桜へっと私宛に、瑠花から書かれた手紙だった。
「土方さん……」
「山崎からの報告と共に同封されていた。
山崎の報告の末尾にも記されていたが、
岩倉が明日、大阪へ到着するようだ。
総司にも伝えておく。
大阪へ迎えに行ってやれ」
そう言うと土方さんは、とっとと出ていけ邪魔だっと言わんばかりに、
指先で払いのけて、また筆を動かし始めた。