あなたの心理テスト(ホラー)
 努が海斗のいないことに気づいてから10分ほど経った。


つまり、海斗がトイレに行ってから約13分が経った。


「なあ…」


 ヨシがぽつりと呟いた。


声には戸惑いが混じっており、何かの異変を感じ取っているかのようだった。


「何だ?ヨシ」


「努…。海斗、いくらなんでも遅くないか…?」


「ううーん。まあ、大のほうじゃないのか?それか…泣いているとか」


 努がいきなりそんなことを言い出すので、


「ちょっと、泣いているのはいいけど、だ、大って…お下品ね!」


蘭は照れながら苦笑いをした。


 クラスメイトの仲にもくすくすと笑うものも数名いる。


しかし、くるみの死をまだ受け入れられず、泣いている者も少なくはなかった。


「まあ、とにかく帰ってくるだろ」


 努は海斗のことを深くは気にしていないようだ。


「ん、そうだな」


 ヨシも努の意見に納得した。


「ちょっと。もう……」


 蘭はまたため息をついて、ヨシと努を交互に見た。


「さて、どうする?別にすることもないし」


 努が皆に語りかけた。くるみのことなど頭にないのだろうか。


もう数年前のことのように遠い記憶になってしまったのか。


涙も流していなければ、悲しそうな表情もしていない。


「努、あんた、悲しくないの?あんなにくるみを連呼してたくせに」


 蘭がそのことを疑問に思い、問いかけた。


「そうだよ。俺だって実は、実はまだ…受け入れら、れねぇし」


 ヨシは止まった涙を再びこぼしながら言った。


「そんなの、俺だって…同じに決まってんだろ…察しろ、馬鹿…!」


 努までつられて泣き出した。


「ちょっと…泣いたってくるみは帰ってこないのよ?


 泣かないで…。泣かないでよ、ねえ」


 蘭は今にも泣きだしそうな顔と声で努とヨシに向かって話す。


「「……」」


 努とヨシは何も言わずに泣き出す始末。


努は無表情で泣き、ヨシは鼻をすすっている。


「ねえ、ねえ、ねえ!!泣かないでよ。


 くるみだって、そんなの…望んでないよ。きっと」


「くるみが望もうが望ままいが関係ない。俺は泣きたいから泣いてるんだよ」


 ヨシが小さい子供のように目を掌で擦りながら言った。


泣きたいから泣く、というヨシらしい意見だ。


「ちょっと、ちょっと、ねえ、ねえってば。


 泣かないでよ。くるみは死んだの。それは変わらないじゃない…。


 くるみは死んだの!!死んでしまったの!!もう帰ってこ―――――」


「もう言わないでくれ」


 努は異常に落ち着いた冷たい声で蘭の言葉を遮った。


今の努の目に宿っている物など無い。


死んだ魚の目をして、立っている。
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