恋愛メンテナンス
clean 5 毒舌ヒーロー
夕方すぎ。

夕飯を作る時間帯に合わせて、新聞の雇われ勧誘者が回ってくる。

一件ずつ独り者を餌食に、

「新聞取って下さいよ」

しつこいくらい、わざと長い時間を掛けて説明をする。

引っ越して来たばかりの永田さんの家からも、その勧誘者の声が聞こえた。

「新聞は、取りたい時に連絡こっちから入れるから、今んとこは他当たってよ」

そんな声が聞こえた。

居留守も使わないで、ちゃんと断わる所がまた男らしい。

ちなみに私は、居留守を使う。

しかし103号室の独り暮らしの、いわゆる永田さんの言っていた年金暮らしのお爺さんに、勧誘者はさっきと酷く違った態度で、強引に話を進める。

2階まで、お爺さんの細い声が聞こえてきた。

居留守してるもんだから、余計によく聞こえる。

「年金ガッポリ貰ってんだから、月々のたかだか何千円の支払いくらいできんだろ、爺さん」

「わ、わしは目が悪くて、新聞はもう読めんのじゃよ…」

「分かったよ。じゃあ商品券あげるから、これで眼鏡を買って新聞読んでよぉ」

「そ、そう言う問題じゃなくて…」

ムムムッ…。

クソムカついてきた。

あまりに強引過ぎない?

助けに行きたい、そして怒鳴り付けてやりたい!

けど、居留守使っちゃったから出て行けないよぉ~…。

「あぁぁっ!うるさい!!」

私は自分の玄関の扉の前で、ドキッとした。

何、今の怒鳴り声。

バタン!…

扉の閉まる音と同時に、永田さんの声がした。

「うるっせぇな、あんた。さっきから爺さん新聞取らねぇって断ってんだろ?とっとと帰れよ。もっと所帯持ちのアパート回れよ。頭悪りぃなぁ」

永田さん…、なかなか男前じゃない。

「独り暮らしのこんなオンボロアパートなんかで、勧誘する方が先ずもっておかしいわ。ノルマ、あんただって有るんだろ?だったら、さっさと他へ行けよ。疲れて帰って来て、外でゴチャゴチャやられるとうるさくて、気分悪りぃだろうがぁ…」

永田さん…、なかなか毒舌が半端ない。

「勧誘マナー、もっと勉強してからノルマに励めよバカヤロー…」

バタン!…

あっ、部屋に戻った。

ヒェェーーッ!

いやいや、永田さん。

あんたは、本当に恐ろしい男だよ。

でも、言ってる事は全然微塵も間違ってないから凄い。

自分の言いたい事は、きちんとはっきり言えるところが凄い。

しかも勧誘者へアドバイスまでしちゃって。

所帯持ちのアパート回れ。

ノルマがあるんだろ。

勧誘マナーを勉強しろ。

ってか、結局お爺さんを助けちゃった訳でしょ?

単純にムカついただけ?

それとも助けてあげたかったの?

そこを謎として隠すとは…。

やっぱり、とんでもねぇ男だ。
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