恋愛メンテナンス
ここんとこ、隣りがやけにうるさい。

最悪な事に祭日が多くて、日中も家に居るもんだから、私はもう耐えらんない。

子どもの泣きわめく声と、床や壁を叩く音。

叱りもしない二人の親の笑う声。

放っておくなら、疳の虫の薬でも飲ませたらどうなんだ。

子どもの嫌いな私でも思う。

抱っこして、背中さすってあげたら絶対に泣き止むのに。

一度、神経研ぎ澄ますくらい嫌な思いをすると、そればっか気になっちゃって。

結果耐えられなくて、喫茶店へ行ったり本屋へ行ったり、夜は銭湯へと逃げるように避けるように行くのだ。

赤ん坊は泣くのが当たり前。

だなんて、思ってもらったら困る。

うるさくて、他人に迷惑を掛けているのは事実なんだから。

永田さんみたいに、強く言えたらいいのに。

あの性格、うらやましい。

うらやましいだなんて、他人に思わない私なのに。

今の私には、永田さんの強い性格がうらやましくて仕方がない。

今夜も銭湯。

そろそろ仕事でも始めようかな…。

何もしてない無職の状態も潮時かも。

何か始めたら、嫌な事も忘れられるかも。

疲れるならば、仕事で疲れる方のがよっぽどいい。

何もしてない私なのに。

こんな事で悩んでる…私…。

バカみたい…私…。

女湯の扉を開けて外へと出る。

帰ろうとした時だった。

駐車場で見覚えのある後ろ姿。

永田さんの後ろ姿だった。

暗くてもすぐに分かる。

…………。

やだな…また子ども…抱っこしてる。

変に複雑なキモチ。

ショックってキモチ…。

黒塗りの軽自動車が、永田さんの前で止まって声がした。

「ほらママ来たぞ~」

後部座席のチャイルドシートに、大切そうに乗せていた。

更に複雑な心境になって…。

もう見たくない!

視線をすぐに、そらした。

私にはあんな愛想悪い態度して、あんな低い声で毒舌かますくせに、全然違うんだから!

どうでもいい人間と、大切な人への接し方、あまりにも違い過ぎてて…。

悲しくなる。

うらやましいくらい、強い心の持ち主なんだって思ったのに…。

あんな高くて優しい声…。

聞きたくない!

私は自転車に股がり、凄い早さで帰って行った。

他人なのに。

同じアパートに住んでるだけの他人。

いつの間にか自分のモノみたいな、そんなキモチで永田さんを見てたりして。

< 17 / 100 >

この作品をシェア

pagetop