恋愛メンテナンス
私が強く語ると、永田さんは目が点になっていた。

「じゃあ聞くけど、自分の望まない出来事が目の前で起きてしまったら、美空さんどうするの?」

…それは…それは…答えられないから、どうしよう…。

永田さん、なかなか鋭い事を聞くなぁ。

もし、答える言葉があるのならば。

避けて、逃げる。

…かな。

面接は終了した。

一週間後に、電話連絡だってさ。

志望動機も聞かれたけど。

さすがにエメラルドグリーンの作業服で、一番に気に入って決めただなんて、言えないでしょ。

一応は、

「今までにやった事のないお仕事をして、自分の知識をまずは磨くため」

だなんて、カッコイイけど適当な言葉を言ってしまった。

出入り口で、永田さんに見送られる。

二人だけになった途端に、ついつい笑ってしまった。

「プッ( 笑 )…」

「おい、何がおかしい」

「あんた、態度でかいから何でかと思ったら。偉そうに、副所長さんだったのね?」

「黙れよ」

低い声して、睨まれた。

「人のアパートをミドリムシだなんてケナシテ…。あんたのが、よっぽどミドリムシじゃんよぉ( 笑 )」

「あんただってなぁ、そのうちミドリムシになるかも知れないだろがぁ」

採用してくれるって事?

「ねぇ、今夜タバコのカートン渡したいから、部屋に行ってもいい?」

「あぁ、いいよ」

………。

会話が途切れても、私も永田さんもその場から立ち去らない。

………。

沈黙してると、自然とお互いが目を合わせて。

………。

探ってるみたいに、見つめ続けちゃう。

「永田副所長!電話入ってますけど」

若い作業服の男の子が呼んだ。

「あぁ、今行く」

片手でカッコよく手を軽く上げる。

「面接有難う。じゃあ、また後でね」

私の言葉に、

「おう、気ぃ付けて帰れよ。ご苦労さん」

私にも手を振り、永田さんはすぐに中へと戻って行った。

そっかぁ…。

だいたい、分かってきた。

アイツの今までの数々の毒舌ぶり。

仕事であれだけキチンとしてるから、プライベートで毒を吐きまくり、自我を出して発散しとんのかい。

しかも管理職だから、人を動かす者として、余計なフォローも付け加えちゃう訳だ。

アホ!

カッコよくて、まともだったら、汚点だなんて全然見つけられないじゃないの!

しかも、とんだ常識人だった。

私が偉そうに出来ない相手。

敵わない相手だった。
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