恋愛メンテナンス
時間になって、アパートの階段を降りて行くと、下からタバコを加えながら永田さんは静かに現れた。

「お疲れ様です」

「おう…」

偉そうにぃ~!

私は永田さんの隣りに並んでみる。

落ち着き過ぎ!

ニコリともしないんだから。

「…そろそろ行く?」

口元から、タバコを少しだけ外して、どっかを真っ直ぐ見ながら言うから、

「永田さんのペースで、いいですよ?」

「おう…」

そしてまた口元にタバコを加えた。

私は隣りで何度もチラ見してやる。

「あんた、酒飲むんだろ?帰りも送るから、どんだけでも飲んでいいぞ」

「うん」

覗いてニッコリ微笑みかけたら、無視された。

感じ悪いなぁ~!

車に乗り込む手前で、黒のダウンジャンパーを脱ぐと、緋色ベースのタータンチェックの襟シャツ。

チラッと首元から黒のタートルネックが見えた。

運転席側から、

「なんだよ」

「いえいえ、何でもない」

…ジロジロ見てたのバレた。

私は助手席にチョコンと座ると、永田さんはダウンジャンパーを渡してきた。

「エアコン調子悪りぃから、寒いだろうから、ソレ、もし、アレだったら使え…」

ソレ、もし、アレって…?

「プッ(笑)…ありがとう」

まだ、暖かいジャンパーをさっそく、前掛けした。

「ヒャァー、あったけぇ~♪」

しかも、なんか…匂うし。

最初はそんなに話さなかった。

やっぱり2人だけの車内は、ちょっと照れた。

でも、オバチャン2人を拾ったあたりから、車の中も暖まり。

永田さんも、やっと苦笑い。

「帰りもお願いしちゃってもいい?」

「いいですよ。そのために俺、車出してんだから」

「ありがたや、副所長様」

後ろからオバチャンたちに、いじられまくられてる。

「美空さんが主役だから、オバチャンたち、頑張って盛り上げてあげるからねぇ~♪」

「あざーっす!」

テンション高いなぁ。

楽しい☆

居酒屋に所長さんが到着して、初めて見る40代のオジサンたち、50代のオバサンたちとも無事に挨拶を交わして…。

「美空さんは試用期間中だから、今はまだ事務所の掃除をやってもらってます」

って、ちゃっかり私の事を偉そうに紹介する永田さんは、偶然なのか私の隣りに座る。

「まぁ、それはうちの会社に入る時に誰でもやってる事だからなぁ」

40代のオジサンは優しく笑って、向かい側に座った。

「うちの会社の花だな、花」

「いえいえ」

良かった、怖そうな顔してるけど物腰は柔らかい。

そして所長さんの有難いお言葉と挨拶で、乾杯する。

オバチャンたちは最初からガンガン、チューハイを飲みまくる。

若い男の子たちも、モリモリ食べまくる。
< 35 / 100 >

この作品をシェア

pagetop