恋愛メンテナンス
clean 13 優しくされると
あちゃー。

つられてチューハイ飲んだら、すぐに酒が回ったなぁ。

「美空さん、2次会でカラオケ行かない?」

若い男に誘われて、嬉しくて返事をする手前で、

「美空さんは、おまえらみたく若くないんだから、カラオケはおまえらだけで行って来い」

永田さんに勝手に決められて、

「今度誘って?絶対カラオケ一緒に行くから」

私もそう答えた。

「早くしてぇー!寒いやんかぁ!!」

「永田ぁー!早く帰るよぉー!」

オバチャンたちの罵声で、私と永田さんは慌てて車まで戻る。

車の中で、オバチャンたちは「寒い寒い」と連呼する。

「エアコン壊れてて、暖まるのに時間が掛かるんですよ、すいません」

低姿勢でシラフの永田さんは、酔っ払いオバチャンに真面目に答えていた。

「本当にこの男は、車の中も心と同じで冷たいんだからぁ」

「ねぇ~もぉ、顔がいいから心は冷たいだなんて、強気なんだからぁ」

またボロッカス、後ろから言われてる。

楽しいなぁ☆

私はバレないように、永田さんのジャンパーをまたコッソリと前掛けして、笑っていた。

自分だけ暖かい…。

そして永田さんの匂いを、コッソリ嗅ぐ。

ヒャァーッ、私って変態だなぁ。

「バイバイ」

「お休みーっ」

「お休みなさい」

家まで送り届けて、また2人だけの空間。

あくびが何度も出る度に、睡魔が徐々に深くなる。

ベラベラ無駄口すらしない永田さんの沈黙に…。

ダメだ…キツイ…もう、寝るから私…。

コテンとシートにもたれ、完全に瞼を下ろした。

時々ズレ落ちるジャンパーを、永田さんは信号待ちの度に、また深く掛け直してくれる。

見えない所で、知らない所で。

そうやってマメな優しさに触れちゃうと。

本当に好きなるから、やめてよね…。

自分にとって、利益のない優しさや思いやりだけの愛情なんて、私は欲しくないの…。

私を特別だと思いやる愛情しか、欲しくない…。

車が急に止まって、永田さんは車から降りて、自販機で缶コーヒーを買っていた。

…上着着てないから、寒そう…。

まぁいいや、知らんし…。

私は少し気疲れもあって、本気で眠ってしまったみたい。

うわぁっ?!

目が覚めて、目の前の時計を見ると、もう深夜1時頃になっていた。

「ヤバッ…」

運転席では永田さんが、寒そうに缶コーヒーを飲んでいた。

そこはもう、うちのアパートの駐車場だった。

「すんげぇ、寝息だったよ」

「うげっ、最悪。着いたなら、起こしてくれてもよかったのに…」

「せっかく車ん中暖まったのに、勿体無いし。それに起こせる訳ねぇだろ」

それもそうだな…。




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