恋愛メンテナンス
clean 15 公衆トイレ
あぁ、気が重い。

マジで嫌だ。

帰りたくて、しょうがない。

トイレ掃除の道具を会社の車に積んで、とある公園まで永田さんと出掛ける。

「ねぇ、どれくらい汚いの?臭い?」

「……」

永田さんは、勿体ぶってんのか全然聞いても教えてくれない。

「うちの営業所は、あんたと他のオバチャン以外はみんな正社員だ。とりあえず、あんたが外で1人で作業を任せられる事は先ずない。だけど、仕事の手順はしっかり覚えて貰いたい」

そんな事はどうでもいい!

臭いのか、汚いのか私は知りたいの!

真面目ぶって、嫌な感じ!

公園に着くと、車を公衆トイレの近くに停め直して、後ろから延長ホースだとかブラシだとかを取り出す。

「これ、ゴム手袋な」

「薄っ!嫌だ、こんなの。破れたらどうすんのさぁ」

「衛生的に良くないし、洗剤もバラ捲くから念のためにマスクもしろ」

「はいはい」

「これで磨く。床は後だ。先に男子便所からやるぞ」

私の露骨に嫌がってる態度も、完全無視。

「はいはい」

私は清掃中の立て札を置いて、男子便所の中へと入る。

「男子便所なんて、あまり入った事ないから不思議な気分だなぁ」

あれ?もしかして、意外とキレイ?

ちょっと安心。

永田さんの指示通りに、私は掃除をしていく。

…2人っきりのラブなモードの空間が。

…公衆トイレだなんて。

…磨きながら、擦りながら。

…ゴム手袋に、顔がしっかり隠れてしまう程の大きめなマスクをして。

…便器と向かい合う。

だけども、それでも、やっぱり気になる永田さんの顔をチラ見して、

「俺をイチイチ見んな…仕事に集中しろっ」

ヤバッ、バレた。

恥ずかしい。

だって、凄い一生懸命に便器磨いてんだもん。

少しくらい見たっていいでしょ☆

今度は女子トイレへと移動して、また便器を長いブラシで磨く。

「どんだけ汚いかと思ったら、ここのトイレはキレイな方ですね」

私がそう問い掛けると、永田さんは言った。

「ここは俺の持ち場。3日置きには必ず来てる」

「へぇ~…」

「持ち場とは言っても、20代の若いアイツらも、パートのオバチャンたちも時々は来て、ここで基本中の基本のトイレ掃除をしてる。だから、ここはいつもキレイなんだ」

「そうなんだぁ~…」

「たまにアクシデントもあるけどな(笑)」

「アクシデントって、もしかして?」

「はみ出て、汚されてる時もある」

絶対嫌だ!最悪!

でも、永田さんは…余裕な顔してる。
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