恋愛メンテナンス
「よく、聞くよね。お店も家も公共施設もトイレがキレイで、そこの雰囲気や事情が分かるって」

「そうだな。1番の汚点的である場所が1番キレイだったら、人間は一瞬で見る目が変わる。使い方も自然と丁寧に、大切に使うだろ?」

「うん…心理テクニックってやつだね」

「メンテナンスは保守作業だ。寿命がくるのは当たり前の事。だけど、その寿命の中でなるべく長く使えるように、維持してやる。アクシデントには迅速に対応して、無駄なく無理なく処理する」

「そっか…」

永田さんは、この仕事をしていて、良かったって思ってるんだね。

そう言うふうに、私には聞こえた。

人のために、モノのために、コッソリと影から働く。

自分じゃない誰かがやるからいいって。

その誰かが、永田さんだったりするんだね。

「あんたも便器にこびり付いた、アクシデントと同じ」

「えっ?…あんたいい加減にしなさいよ!」

「自分の事ばかりを押し出して、勢い余って、余計な場所にはみ出して。それでもいいだなんて、勝手に思い込んでいやがる…」

「はぁ?…うるっさいなぁもぉ!」

「収まりよくやりゃあ、跡形もなく流れて消えるが、わざわざはみ出すから、みっともねぇし、更に汚く見えて手が掛かる…」

また始まった。

イヤミか毒舌。

「喧嘩吹っ掛けってんでしょ?私に」

永田さんは立ち上がり、私に向かってブラシを向けた。

「おまえの心は醜く汚れている」

「はぁ~っ?!」

デタデタ…オヤジのお説教。

「俺はそう、あの時の飲み会で思った。そのくだらん自己主張は、はっきり言って世間では絶対に通用しない」

言われんでも…、

「わぁ~っとるわい!」

ムカツク!

本当にこの人は!

せっかくいいムードだったのに!

どうして壊すのバカ!

あんたの素敵な部分を知れて、ドキドキしたのに!

私の事になると…。

「なんなのよ!さっきからぁ!ケチョンケチョンじゃないの!」

私も立ち上がり、鬼と化す。

「だから俺が、世間の厳しさを教えてやる。その濁った目、自信の無い猫背、薄汚く歪んだ心、不満気な醜い面がまえ。副所長の俺様が、徹底的にあんたを磨いて、まっとうな人間にしてやるよ。…覚悟しとけ」

ふーざーけーるーなーっ!!!

永田ぁーー!!!

とりあえずトイレ清掃は、ムカついたおかげで、いつもより集中して作業をこなして、2時間の2人っきりの時間は終わった。

私は家に帰りながら、プリプリとタコみたいな顔して、モモちゃんにラインした。

『いやぁ~ん☆調教ラブじゃん』

調教ラブなんて、求めてないっての。

私は続きを読む。

『永田さんシャイなんだよ、きっと。でも取り繕った口説き文句を並べる男よりも、よっぽどそっちの方がストレートに優しさを感じるけどな』


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