恋愛メンテナンス
「あそこの営業所の人たちも、本当にみんな個性的で。それでいて優しくて。気落ちしてても、あの人たち面白いから、すぐ嫌な事、忘れちゃうんだよねぇ」

「確かに。漫才師の集まりみたいだもんなぁ」

輝はまた、私に聞いた。

「続けていけそう?」

「うん。今の所はぁ、嫌な事も腹立つ事もないしねぇ♪」

私は輝の布団の中に、ゴソゴソと潜り込む。

「それに、いつも輝が側に居てくれるから…」

ギューッてして、首に巻き付く。

「…なぁ…俺と同じ部屋で住まない?」

「………」

なんだ、やっぱりソレか…。

さり気なく聞いてきた輝は、マジな目をしていた。

でも、ごめん…。

「えぇ~っ、住まなーい。だってだってぇ、今の行ったり来たりの、付かず離れずって言うの?この生活。微妙な距離があるからこそ、私はこんなにも輝を愛しく、感じて止まないんだものぉ」

素直な思いを、私は伝えた。

「俺は嫌だね。俺は好きな子だったら、絶対側に置いておきたいし…」

「置いておきたいって、何よ?その言い方。女はモノじゃないんですけど!」

私は、やっぱり離れて自分の布団の中へと戻った。

「距離があった方がいいだなんて…それじゃ、そのうち気持ちまで離れていくじゃねぇかよっ…」

私はアッサリ答えてやった。

「その時はその時で、それまでの縁だったって事でしょ?…」

すると、輝は身体ごと逆へと向けた。

あれ…。

背を向けて、しばらく黙って。

そして、

「明日所長に、おまえの雇用契約の変更頼んでおく。…仕事、頑張れよ。…悪りぃ…俺もう寝る…お休み…」

そう言われて、

「輝っ…」

腕に触れたら、凄い勢いで振り払われてしまった。

「………」

モモちゃん。

私、また最後まで輝の想いを聞き出してあげるの、失敗しちゃったみたい。

どうしてかなぁ。

自分の考え方を、知って貰いたい一心で。

言葉も選ばずに、言ったみたい。

最悪なバレンタインだった。

けど今回も。

最悪なホワイトデーみたい。

とりあえずは、翌朝ちゃんと謝ったよ。

無神経な言葉で、怒らしたのは私だから。

ずっと、引きずるような喧嘩でもないし。

でも輝は、いつものように『よしよし…おまえ、アホだなぁ』とは、言ってはくれなかった。

淡々と、まるでただの知り合いみたいに私の相手をしていたのだ。

こういう時って、妙に臆病になってしまって、無理矢理私は笑って輝の腕に巻き付いていた。
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