妖精と彼女【完】
どうせ読んでも分からないだろうと思いつつも、ページをめくった。
パラ、パラ、と乾いた紙がめくれる音がする。
マンガの中の主人公は、見たこともないチームと試合をしていた。
斜め読みする程度に目を通してみたけれど、やっぱりストーリーはまったく分からなかった。
読むことを断念して、マンガを閉じようとしたら何かメモがヒラリと床に落ちた。
「…………?」
真っ白なメモを拾い上げると、裏側に何か書いてあるのが分かった。
裏面をめくると、そこには歪んだ汚い文字が書いてあった。
『悠ちゃん 勉強がんばってね』
驚きに、メモを持つ手が震えた。
……これは、しおり代わりにしてたのかな…?
それとも……あたしへの、メッセージ?
メッセージはボールペンで書いてあるけど、よく見るとシャーペンで練習書きをして消したような跡が残っている。
勉強がんばって…なんて、彼は一度もあたしに言わなかった。
本当は、言おうとしていたのかな…?
あたしは、胸がギュッと締め付けられるような思いがした。
嬉しくて、なんかドキドキするような、切ないような…複雑な気分。
マンガはそのまま机の上に置いて、トウが今度部屋にやって来た時に返そうと思った。
もう一度、汚い文字のメモを眺める。
なんとなく、あたたかい気持ちになって、そっと微笑む。
「………ありがと、」