妖精と彼女【完】
先に玄関へと向かってしまった愛の背中を追いかけて、あたしは玄関に向かった。
けれど、玄関に愛はいなかった。
あたしは靴を履いて外へ出た。
愛はすでに家の外で待っていたけれど、あたしを置いて行くようなことはしない。
優しくて、本当に自慢の弟です。
愛と夕ご飯を食べる店はいつも行き当たりばったりで決めてるから、今日もそうなるのだろうと思ってた。
今日はどこのお店に行くか、と話しかけると愛から「今日は決めてあるから俺に着いてきて」と言われた。
「………?」
いつもはあたしの希望を尊重してくれたりするのに。
……そう思ったものの、愛の希望を尊重するのも好きだから全然構わない。
隣を歩く愛を、チラリと見つめる。
ポーカーフェースな弟の横顔はとても端正。イケメンと言われるのも理解できる。
その横顔をチラチラと見ながら、あたしはあることを考えていた。
愛に対しては…とかドキドキ、とかはないから……ドキドキするのって恋なのかな…?
そういえば、愛にもドキドキしたりする相手とか…いるのかな…?
なんとなく疑問に思って、聞いてみようと思ったのはほんの気まぐれだった。
「あのさぁ…愛はドキドキすることとかある?」
「!?」
愛は勢いよく、あたしの方を見た。
相変わらずのポーカーフェイスだけど、あたしには分かる。
愛は今、ものすごく驚いている。