妖精と彼女【完】
あたしにジトリと睨まれたそいつは、少し困った様子でヘラっと笑ってる。
「会いたいからって言ったじゃーん。悠ちゃんのことが好きなんだもん。一緒にいたいよ」
「……………」
彼はいつもあたしのことを好きだと言ってくるけど…あたしは彼の言う「好き」がよく理解できていない。
彼の名前はトウ。
……本人が言うには、彼は温泉の”妖精”らしい。
あたしの家は温泉が出るから、きっとそれが関係あるんだと思う。
妖精なんて見たことなかったし、非科学的なものは信じてないんだけど……でも、あながち嘘ではないのかもしれない。
だって、彼は1年前あたしの前に突然現れたのに……彼は何らかの力を使って、昔からあたしのお隣に住んでいることになっている。
絶対にそんなわけないのに。
お隣さんに子どもはいなかったのに。
だから、彼は本当に妖精なのかもしれない……。
出会いは突然だった。
まだ開店していない銭湯の男湯。
清掃のために、久々に足を踏み入れた男湯に………そこに彼はいた。
それが、あたしとトウの出会い。
そして、この日常の始まりだった。