妖精と彼女【完】
白っぽい服を着ていて、短い黒髪。
若い男の子だった。
一瞬、弟かと思ったけれど、違うと確信した。
父でもない。
じゃあ、お客さん…?何故ここに…?
開店前の店にお客さんがここにいるわけがないのに…。
たじろいだあたしに気付いたその人は、こちらに向かって歩いてきた。
その顔には笑みが浮かんでいる。
あたしはその顔に見覚えがないかを確認するために凝視した。
若い男の子だけど、見覚えもないし初対面だと思う。
残念ながら、最近の銭湯には若い子があんまり来ないし……。
それにしても服を着たお客さんが浴室にいる理由が、さっぱり意味が分からない。
しかも開店前だし。
「……あの、」
こちらへ近づいてくる男の子に、あたしが恐る恐る話しかけた。