妖精と彼女【完】
その手には、相変わらずマンガやら本が必ず握られている。
そして、いつも通りベッドに寝転んで持参した本を読む。
昔からトウが本を持ってくる理由は、飛び出す刑事のDVDを熱心に見るあたしと、同じ空間で時間を過ごすため。
あたしの興味の対象が「飛び出す刑事」から、「勉強」に変わっても、トウの過ごし方は決して変わらない。
…まぁ、飛び出す刑事の時は、時々トウが犯人を推理しだしてうるさい時があったけど、今回はそれもなくて静かで良い。
同じ空間での時間を、お互いに無言で過ごして5分たったらトウは帰っていく。
あたしや愛に追い返されなくても、自ら帰るようになった。
トウが帰る時は、必ずあたしに声をかけてから帰る。
「また来週来る」ということと、「好きだ」と言うことは欠かさない。
それに対して、あたしは「うん…」としか返事が出来なくて、どうしたものか…と悩んでいる。
ヤマさんの言うように、距離をとってみても…結局悩みがなくなることはなかった。
でも距離をとらなければ、あたしはトウの顔を見て嬉しい気持ちになる自分を自覚することはなかっただろう…。
そういう意味では、やっぱりヤマさんは素晴らしい人だと思った。