マリー
第一章 失踪
 太陽は厚い雲にその姿を覆い隠されている。

 岡崎は辺りを見渡し、ため息を吐くと、足早に歩く。

 雨に打たれるのを避けたかったのだ。

 だが、そんな労力も虚しく、もう少しで家にたどり着くというときに、頬に冷たいものが触れた。

 一気に視界が悪くなり、傘を持ってこなかったことを心から悔いた。

 だが、岡崎の足は自然と止まる。

 黒髪に濃紺のワンピースを着た少女が、道路の真ん中に立ち尽くしているのに気づいたからだ。この町では高齢化が進み、子供の姿を見ることは少なくなっていた。


 知っている人の子供である可能性が極めて高く、彼女が身動きをしないこともあり少女に駆け寄る。

 車が一方通行しかできない道路で、車が通りかかればひとたまりもないからだ。

 彼女までの距離が一メートルほどに迫ったとき、彼女が誰かに気づく。

 それは彼女が以前の教え子だったからだ。

「白井さん?」

 岡崎は彼女の名前を呼んだ。

 雨に濡れ、いつものようなボリュームを失った髪が体の一部と化していた。

 彼女が振り返っても、髪の毛は体と同じ動きをするだけだった。

 少女の頼りなさそうな黒の瞳が見開かれる。そして、形の良いふっくらとした唇がわずかに震える。

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