マリー
一家の家計を支えているのは母親だった。
仕事が忙しいのか、いつも帰宅するのはこの時間で、疲弊しきっている。
彼女は再婚どころか、恋人を作ったり、贅沢をすることもなかった。
自分を生んだことを悔いている。
幼い頃からそう感じ取るほど、美佐は知美を邪険に扱っていた。
その証明のように、知美が産まれて十二年の間、まともに会話が成立したことはない。
友達の家の母親の話を聞くと、あまりの違いに恨めしい気持ちを抱くことさえある。
だが、その度に、知美は自分の心を戒め、こう言い聞かせた。
自分の親はあの人だけで、今はあの人に頼るしかない。
知美は首を横に振ると、暗い気持ちを振り払い、眠りに就くことにした。
眠りに落ちる知美の耳元を雨音が掠めていった。