マリー

「お父さんとお母さんに話そうなんて思わないほうがいいわ。だって、偶然なんだもの」

 彼女はそう言い残すと部屋を出て行く。

 知美はマリーを抱き寄せると、抜け落ちた髪の毛を彼女の頭につけようとした。だが、すぐに滑り落ち、指に絡みつく。

「ごめんね。マリー。もっと見つかりにくい場所に置いておくべきだったね」

 マリーを抱きしめる。

 そして、優子の言葉を思い出し、知美はそっと唇を噛んだ。


 翌日、甲高い悲鳴が知美の眠りを妨げた。顔をあげると、辺りを見渡す。

 痛む頭を抱え辺りを見渡し、記憶の中で響いた悲鳴の記憶を手繰り寄せる。

 優子の声だと気づき、ベッドから身を起こすとドアを開けた。

 そして、隣にある優子の部屋の前に行く。彼女の扉は開いており、既に将と伊代の姿がある。

 優子は伊代の体にしがみつくように泣きじゃくっていた。いつもの彼女とは別人のように見える。
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