マリー
「夢を見たんじゃないの?」

 伊代が優子の背中をさすりながら、そう諭した。

「違う。誰かが髪の毛を引っ張って首を絞められたの」

 将と伊代は顔を見合わせ、困ったような顔を浮かべていた。

「お父さんもお母さんも誰も見ていないのよ。だから、大丈夫よ」

「でも、確かに首が締められた。髪の毛が抜けても、首が締まっても偶然だと言っていたの」

 彼女はそこで言葉を切る。

「茶色の髪が見えた。金に近い明るい色の目をした女」

 知美はその言葉に体を震わせる。

 不意に顔をあげた優子と目が合う。そのとき、彼女の唇が不適に微笑むのを見逃さなかった。その様子に身震いし、思わず部屋に戻る。

 優子の虚言だろう。そう言い聞かせてもクラスで語られた女の話が頭を過ぎり、何度も深呼吸をして乱れた呼吸を整える。

「もう会社に行くから、優子のことは頼む」

 将の声が聞こえた後、重い足音がドア越しに伝わってくる。
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