マリー
 信号の近くで二人の足が止まる。

 知美は転校初日に岡崎が伊代が来るまで送ってくれた事を思い出していた。

 彼も知美にとっては将や伊代と近い人間だった。

 信号が青に変わり、歩き出そうとしたとき、穏やかな声が耳に届く。

「君にとって、お母さんの美佐さんはどんな人だった?」

 知美は驚きながら彼を見る。

「お母さんのことを知っているんですか?」

「昔の教え子だよ」

 知美はその言葉にそうとうなずく。

 問いかけに答えようと思っても、美佐に対する様々な感情が入り乱れ、端的にまとめるのは難しい。頭の中の情報を整理して、事実だけを告げることにした。

「お母さんはわたしのことを嫌っていたみたいです。だから、今、死んでしまったけど、幸せだと思います。わたしがいないんだもの」

「嫌っていた?」

 眉根を寄せる岡崎の言葉に頷いた。

「あまり話すとお母さんと悪口みたいになってしまうから」

 彼女はそう言うと、口を噤む。

「もしよかったら聞かせてくれないか? 知りたいことがあってね。あまりに辛かったら無理にとはいわない」

「一つ教えてくれるなら」

「何?」

「お母さんってどんな子供でした? 友達とかいたんですか?」

 知美は具体的に悪魔の話は出来ず、ぼかして問いかける。

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