マリー
 知美の目の前を幾人もの人がかけていく。聞きなれた知美の名前を呼ぶ声がし、顔をあげると将が立っていたのだ。彼の傍には見た事のない男女の姿があった。男性は白髪混じりの大柄の男性だ。女性は程良い肉付きがあり、口元にはほくろがある。

 知美は青ざめた二人の顔を見て、真美の両親なのだと気付いた。

 知美はすがるものを求め、将の洋服の裾をつかむ。

「あなた、あの女の娘ですってね」

 吉井和子が知美を睨む。

 憎しみのこもった目に、知美は身じろぎする。

「あなたのせいで真美がこんな目にあったのよ。だから、仲良くするなっていったのに」

 和子が手を振り上げた時、将が知美の前に立つ。そして、吉井は自分の妻の手を抑えていた。彼女は夫を睨み、体を動かす。

「何をするの?」

「これは事故なんだ。この子には関係ない」

「ないわけないじゃない。あの時、どれだけの人が死んだと思っているの?」

 その時、手術着を来た男性が四人の前で足を止めた。

 吉井は妻の肩を抱き、二人に声をかけると奥に消えた。

「すこし宜しいですか?」

 丁寧な言葉に顔を上げると、三十台半ばと思われるスーツを着た男性二人が立っていた。彼らは真美の事故の件について事情を聞きたいと言い、知美は時折泣きそうになるのを堪えながら、その時見た現状を出来るだけ詳細に答えた。
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