マリー
 知美は喉の渇きを覚えながら、やっとの思いで言葉を発した。

「その子はお母さんなの?」

 将は無言でうなずく。

「新しい引っ越し先を決めた帰り道に、交通事故に巻き込まれ、僕と美佐だけが助かった」

 知美は言葉を失う。過去を聞かされても、心のどこかでただの偶然だと信じたかったのかもしれない。

「引越しどころではなくなり、美佐は今まで以上にふさぎ込んだ。僕が話しかけても無視するようになっていた。大学一年だった僕は大学を辞めて、働こうと思ったんだ。そしたら、彼女を連れて別の街に引っ越せるとね。でも、それを拒んだのは誰でもない美佐だった。

だから、これから二人でどうすべきか時間をかけて話し合おうとしたんだ。美佐は中学を卒業して、ここから離れた高校に入学はしたが、ある日突然姿をくらました。探さないで欲しいし、警察にも届けを出さないでくれと書き残して」

 将の噛みしめるように発された言葉が、知美の心を引っ掻いていく。

「それからどうしたの?」

「再び美佐に連絡がとれたのはそれから一年後だった。正確には美佐からではなく、川瀬さんから連絡があったんだ」



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